大相撲春場所は関脇若隆景(27=荒汐)が、初優勝を飾った。千秋楽に優勝の可能性があった3力士がいずれも本割で敗れる波乱。12勝3敗で並んだ優勝決定戦を若隆景が、高安(32=田子ノ浦)を上手出し投げで制した。
勝者よりも、敗者に目がいってしまう。悲願の賜杯はあと1歩、手の届くところにあった。東前頭7枚目で迎えたこの場所、初日から10連勝するなど優勝争いをけん引した。しかし、11日目に若隆景に初黒星を喫すると、終盤5日間で3敗と失速した。
それでも望みをつないだ優勝決定戦。相撲の流れは高安だった。土俵際まで追い詰めた圧力に膝がくの字に折れた若隆景。勝機は九分九厘、高安にあったが最後に見放された。
「これが結果です」と声を絞り出した取組後のオンライン取材が印象的だった。悔しさを全身からにじませながら、現実を受け止めているように映った。
「力足らずです。最後は気持ちしかなかった。すべてを出し尽くしました。負けたということはまだまだ稽古が足りないということです。本当に勉強させていただきました」
決してエリートではない、苦労人だ。10年九州場所の新十両昇進まで34場所を要した。11年名古屋場所の新入幕後も、好成績のあとはけがに泣く。そんな繰り返しだった。
17年名古屋場所で大関に昇進も在位15場所中、途中休場を含めて6度の休場。大関陥落となった19年九州場所では幕内土俵入りの後にぎっくり腰を発症して休場を余儀なくされた。
不完全燃焼による悔しさをかみしめてきた。それだけに今年の春場所は期するものがあったのだろう。170キロ台に落ちていた体重をトレーニングで183キロまで増やした。その重みを生かした相撲で初優勝に迫り、届かなかった悔しさは見ている側にも伝わった。
「もう1回優勝を目指します。この気持ちを忘れず、挑戦したいです」。この思いが稽古に、土俵に向かわせるはず。5月8日、東京両国国技館で初日を迎える夏場所。注目したい力士の1人にあげたい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)


