女子プロレス団体スターダムに所属していた木村花さんが22歳で亡くなって23日でちょうど1年を迎える。

同日に後楽園ホールで開催される追悼興行「木村花メモリアル『またね。』」を控えて、花さんの母で元プロレスラーの響子さん(44)が、日刊スポーツの取材に応じた。この1年間の苦悩、SNS上での誹謗(ひぼう)中傷撲滅の活動、追悼大会への思いなどについて胸の内を明かした。

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響子さんはこの1年を「長かったのか短かったのかよく分からない。異空間に迷い込んだ感じで時間の感覚もない感じ」と振り返った。亡くなって1カ月ほどは人前で話すこともできないほど憔悴(しょうすい)していたが、四十九日を過ぎたころから、人前で話し、取材などを受けるようになった。気持ちを奮い立たせて現役時代のアフロ姿に戻し、ギリギリの状況で踏ん張って生きてきた。

響子さん 本当にこんな理不尽なことが世の中に起きているということをたくさんの人に知ってもらわないといけないし、その上で世の中を変えていかないといけないと思っている。

取材のたびに悲劇を思い出す。心を痛めながらも活動を続けてきた。思いは1つ。人への誹謗中傷がなくなって、花さんのように苦しむ人をなくすこと。国会でも議題に上がり、ソーシャルメディアを運営する各企業も嫌がらせや名誉毀損(きそん)の禁止を促すようになった。

昨年12月にはツイッターで中傷の投稿を繰り返した男性が書類送検されるなど、投稿者が特定される判例も出た。今月19日には花さんが亡くなった後も「地獄に落ちなよ」とSNSに投稿した男性に対し、129万2000円の支払いを命じる判決が下された。それでも、なかなか減らない状況にもどかしい思いが続いているという。

響子さん 芸能人やアスリートが発信してくれたのはうれしいけど、今でも毎日のように誰かがネットリンチされていて無法地帯になっているのが現状。相手を特定するのがこんなに大変なことなんだということがたくさんあった。

現在はNPO法人「RememberHANA」を設立準備中。政治家などに働きかけ、署名を集めている。設立が認められれば、学校や会社に働き掛け、誹謗中傷について一緒に話し合ったり勉強したりしていくつもりだ。

響子さん 最初の1歩から積み重ねていくことが大事だと思うし、判例を重ねていくことで、多くのこと(卑劣な投稿)が誹謗中傷であると認定されたらいいなと思う。この現状を変えていきたいし、これは本当にすごい時間がかかることだと思う。

花さんのファンだけでなく、全国の人に訴えかけるためにも23日の大会は成功させる決意だ。チケットは早々に完売したが、有料の動画配信も行う。所属していたスターダムからも朱里ら数選手の参加が決定。花さんへとゆかりのある選手たちが、思いを胸にリングに上がる。

響子さん まだ自分も(23日を)どう過ごしていいか分からない。あまりにも突然すぎて、気持ちの整理がまだできてなかったり、落ち込んでいたりする人もいるかもしれない。花に伝えたいこともたくさんあると思うので、みんなで一緒の時間を過ごして、心の中で花にメッセージを送ってほしい。

「普段からにぎやかで、楽しいことが、おいしいものが、キレイな景色が、オシャレが大好きな明るい子だった」。今でも響子さんの心にはっきりと宿る花さんの姿を、リング上で全国のファンと共有する。そして、志半ばで夢を絶たれた22年間の人生と、それを奪った卑劣な行為の撲滅を、すべての人の心にしっかりと刻む。【松熊洋介】