ボクシングWBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)が「泰然自若」で計量ハプニングを乗り越えた。13日、有明アリーナでWBO世界同級王者ポール・バトラー(34=英国)との4団体王座統一戦に臨む。12日には横浜市内で両者そろって前日計量。突然の体重計変更という相手陣営の「陽動作戦」で、自身初の計量ミスに見舞われたが、約5分後の2回目計量でクリア。統一王者らしく余裕の笑みを浮かべた。

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井上のトレーナーで父の真吾氏(51)は「井上家イズム」を貫き、大一番に備える構えだ。12日は井上、バトラーが計量クリアする姿を確認。バトラーに勝てば、日本初、アジア初、バンタム級初の4団体統一王者となるが、真吾氏は自然体を貫く。

「次の試合がたまたま4団体の統一戦になったという感覚。試合に気持ちの違いはないです。客観的に見たらすごい試合かもしれないですが、自分にとってはキッズ大会や高校の試合、ノンタイトル戦も、試合の重さは一緒なのです」

長年、井上の強打を受け続けた影響で手のしびれが続き、18年ごろからミット打ちは所属ジムの太田光亮トレーナーに任せてきた。ただ9月上旬、親子一緒に気分転換を兼ねてハワイに足を運んだ際、自らミットを持って一緒に汗を流し、バトラー戦に向けた機運を盛り上げたという。キャリア最高期に到達した井上の成長を誰よりも認める。

「頼もしいし、たいしたもの。自分の置かれた立場を考え、責任感が強い。自分が塗装業や不動産業で仕事への向き合い方を見せてきたので、受け継いでくれたと。その意識や考え方が欠けていたら、今の位置にいないと思います」

6月のドネア戦で、真吾氏は2回TKOで敗れたドネアのもとに真っ先に駆け寄った。息子ではなくドネアを心配した姿が国内外で話題に。「心配で大丈夫かと思い自然に行きましたね。ナオ(尚弥)にドネアの動画で左フックを練習させていた存在だったので」。父が相手に敬意を表し、謙虚であり続ける限り、井上が崩れることはない。【藤中栄二】