大相撲の夏場所は今日14日、東京・両国国技館で初日を迎える。37年夏の双葉山以来80年ぶりに初優勝からの3連覇に挑む横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)は13日、優勝額贈呈式に初めて出席した。1人で大関と横綱という、違う姿が2枚並ぶ式は、62年初場所前の大鵬以来55年ぶり。07年初場所前に消えた貴乃花以来、日本出身横綱の額が10年ぶりに国技館内に飾られる夏場所へ、意を決して臨む。

 化粧まわしだけのシンプルな姿と、綱を締め、左手で太刀をつかんだ堂々たる姿。1人の男が、格好の異なる2枚の優勝額を並べた風景は壮観だった。大関時代の初優勝と、新横綱優勝の偉業を記した額。2枚の前に1人で立った稀勢の里は「うれしいです。こんな立派な優勝額を頂いて、ありがたい」と感謝した。

 掲額制度の始まりは1910年(明43)。56年春場所から地方場所の優勝力士も飾られ始めた。東京場所前恒例の贈呈式は、直近の東京と地方の優勝力士が額になる。そこで大関と新横綱で連続優勝を飾り、異なるいでたちの絵が並んだのは、62年初場所前の大鵬だけ。大関、新横綱で連続優勝を果たした先代師匠の隆の里と貴乃花も地方→東京の優勝で、贈呈式で2枚同時に並びはしなかった。「また頂けるように、しっかりやりたい」と誓った。

 春場所で負った左上腕付近のけがは完治していない。だが、出ると決めた以上、八角理事長(元横綱北勝海)は「横綱の立場だから、けがは理由にできない」とした。稀勢の里も受け止める。並んだ2枚の額は格好こそ異なるが、いずれも前を向く。「なるべく正面を向きたいと思った」。その思いで、土俵に上がる。

 07年初場所前に消えた貴乃花以来、10年ぶりに日本出身横綱の額が戻る国技館。「稀勢さま~」の声が飛び、拝むファンもいた。そんな熱気を帯びる周囲をよそに「力んでもしょうがない。今から硬くなっても、熱くなっても意味がない」。稀勢の里は、落ち着き払っていた。【今村健人】