脂ぎったウエスタンの世界に、フランス人監督のこだわりがスパイスとなり、不思議な空気の作品になった。

5日公開の「ゴールデン・リバー」のメガホンは「真夜中のピアニスト」(05年)で知られるジャック・オーディアール監督。前作「ディーパンの闘い」(15年)では、内戦のスリランカからフランスにたどり着いた元兵士にスポットを当て、がんじがらめの環境に挑む1人の男の壮絶な闘いを描いた。

今回もどうしようもないしがらみにあらがう男たちの物語だ。圧倒的なボスに支配された19世紀の米西部が舞台。伝説の殺し屋兄弟(ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス)は、ボスの命を受け、金をえり分ける方法を開発した化学者(リズ・アーメッド)殺害の旅に出る。先乗りした連絡係(ジェイク・ギレンホール)は化学者との接触に成功するが、彼の人柄や、金の力で理想郷を作ろうという思いにひかれ、いつの間にか化学者側に立つようになる。

紆余(うよ)曲折あって、妥協を知らないかのように見えた兄弟もしだいに化学者の人間的な魅力にひかれていく。ハリウッドを代表する個性派のライリー、フェニックス、ギレンホールの3人にパキスタン系英国人のアーメッドを加えた4人のアンサンブルが素晴らしい。

兄ライリーは殺し屋とは思えないほどおっとりしている。権力欲の強い弟フェニックスも意外な優しさを見せる。ならず者一味に身を置きながら連絡係ギレンホールには知的な雰囲気が漂う。そして化学者アーメッドの澄んだ瞳にはカリスマ性が宿って見える。西部劇の典型キャラには収まらないそれぞれの個性が前半でくっきりと浮き上がる。

ボスの目を逃れて独自の金採掘に乗り出す4人の間には微妙な思惑のズレがある。さらにはボスが放った追っ手も迫って-。

日本の各種「ミステリー・ベスト」で10本に選ばれた「シスターズ・ブラザーズ」(11年、パトリック・デビット著)が原作。脚本には大きな変更があったようだが、そもそもこの本を読んでいないこともあって、先の読めない展開を素直に楽しめた。

オーディアール監督は「19世紀の鉄板を使った銀盤写真術の色合いをイメージした」という。確かに赤いベルベットや緑には絵画のような味わいがある。そんな監督のこだわりを受け、ギレンホールも1カ月かけて言語学者とともに当時のアクセントを身につけたという。

シャツやズボンの緩やかなラインも西部劇にしてはエレガントな感じがする。当時の写真や文書に照らし合わせたというから、むしろ史実に忠実なのだろう。ロケ地のスペイン、ルーマニアに再現された西部世界。兄役ライリーが原作の映画化権を獲得したのが発端だそうだが、スタッフ、キャストの全力投球が端々に感じられる作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「ゴールデン・リバー」の1場面 (C)2018AnnapurnaProductions,LLC.andWhyNotProductions.AllRightsReserved.
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