緊急事態宣言で映画は公開延期され、試写会も中止になっている。長期化する巣ごもり生活の潤いの一助に今回はドラマ作品を紹介する。

実はこういう事態にならなければおそらく見る機会のなかった韓国ドラマにはまっている。本国で最高視聴率33・6%を記録した「世界で一番可愛い私の娘」(WOWOW)だ。現在32話に差し掛かったところで、全54話。1話75分の長尺だからボリュームがある。ちなみに見逃し配信も行われている。

下町風の食堂を営むたくましい母親ソンジャ(キム・へスク)とそれぞれに個性的な三姉妹の物語。「渡る世間は鬼ばかり」に近いテイストだが、三姉妹の夫や交際相手が平凡なサラリーマンから財閥御曹司、出版関係者と幅広く、韓国社会を多面的に映している。

主人公の次女ミリ(キム・ソヨン)は、実はソンジャの妹インスクの子で、ゆえあって家族を離れたインスクに代わりソンジャが育てている。

ミリは優秀で財閥系のアパレル企業で最年少の部長職。育ての親ソンジャに対する思いも強い。が、そのアパレル企業の新代表となったのが、曲折の末オーナー一族に嫁いだ実母のインスクで、すさまじい愛憎劇が巻き起こる。さらには恋愛感情が芽生え始めていた部下の新入社員テジュ(ホン・ジョンヒョン)が、実はオーナー一族の御曹司だったことが判明して人間関係はさらにややこしくなる。

娯楽に徹したドラマだけに格差社会の陰影をリアルに映すわけではないが、テジュの父親でオーナーのジョンス(ミョン・ゲナム)の偏屈でいやらしい性格描写が財閥に抱く韓国民の感情を反映している。

平凡なサラリーマン一家に嫁いだ長女ミソン(ユソン)や、デビュー作で注目された後、長いスランプに陥っている作家の三女ミへ(キム・ハギョン)を巡る人間関係もややこしい。それでも、それぞれのキャラクターに日本のドラマのようなひねりがなく、お国柄で感情描写もはっきりしているので「人物相関図」は分かりやすい。

親や目上を立てる儒教的な考え方が根底にあるので、親の立場で見るとほっとさせられる半面、時に時代劇のようなところもある。そこもまた味わいどころかもしれない。脇役陣ではミリの部下であるお調子者のパク代理(チョ・ヨンフン)と実直なキム・チーム長(キム・ワングン)が対照的な視線で韓国のサラリーマン社会を照らし、パク代理が漏らすグチの中に庶民の本音がのぞく。

「パラサイト」に代表される韓国映画の陰影や奥行きとは対照的にセットや照明には割り切り感がある。じっくりと撮る映画と自転車操業で収録するドラマの格差は日本では考えられないくらい大きいようだ。一方で、登場人物に成りきった俳優陣の演技は分かりやすい。

強気だが実は優しく、時にもろさを見せるミリにハラハラさせられ、財閥を鼻にかけない優しいテジュとの純愛の行方を見守らずにはいられない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)