3年前のことになるが、ドラァグクイーン(DQ)を題材にしたブラジル映画「ディヴァイン・ディーバ」の公開に際して、カルーセル麻紀(78)に話を聞く機会があった。

日本ではLGBTはどのように見られ、思われてきたのか。彼女の半生はその変遷を端的に映している気がした。多少とも理解は深まったことが伝わってきたが、取材の終わりに付け加えのように言った言葉が記憶に残っている。

「最後はやっぱり家族の問題に帰っていくんです。私たちのことをものすごく理解してくださっている女性が、いざ自分の息子がそうだと分かったときには取り乱しますから。『麻紀ちゃん、うちの息子治らへんのかなあ?』って真剣に相談受けたりするんです」

2月26日公開の「ステージ・マザー」が描くのは、LGBTを子に持った母親の複雑な思いだ。

テキサスの田舎町で聖歌隊の指導に当たる平凡な主婦イベリンは、家出して疎遠だった息子リッキーの突然の死を知らされる。リッキーは世界有数のLGBTコミュニティーの拠点として知られるサンフランシスコのカストロ・ストリートでゲイバーを経営していた。

息子の生き方を許さない夫の制止を振り切り、イベリンはリッキーの葬儀に出席するためサンフランシスコを訪れる。DQのショーのような葬儀に思わず席を立ったイベリンだが、隣人のシングルマザーやゲイバーの心優しい同僚たちに触れるうちに、自分と同じ音楽好きで周囲への気遣いを忘れなかった息子への思いが込み上げてくる。

一方で、「スター」だったリッキーを失ったゲイバーは経営難に陥っていた。にわかオーナーとなったイべリンは意外な才能を発揮してDQショーを盛り上げていくのだが…。

イべリンを演じるのは「アニマル・キングダム」(10年)で知られるオーストラリア出身のジャッキー・ウィーヴァー。偏見の塊のような環境で育ちながら、実は目いっぱい心の広い、タフな女性を好演している。DQ世界にするりとなじみ、彼女たちの言動を息子の幼少期の思い出に重ねる。ちょっと出来過ぎな女性にリアリティーを感じさせるのは、ウィーヴァーが言動に巧みにメリハリを利かせているからだ。

トム・フィッツジェラルド監督が求めた「温かみ+鉄の心」の要求に応え、息子の死因となったドラッグ問題や同僚DQの家族問題にも踏み込むスーパーウーマンぶりに喝采を送りたくなった。現実世界がそんなに甘くないことは分かっていても、カルーセルに相談を持ち掛けた女性にも見てもらえば、多少とも心は軽くなるかも知れない。

人気ドラマ「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」のルーシー・リューがシングルマザー役でアクセントとなっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)