決して見ることが出来ない北朝鮮の政治犯強制収容所の内情を3Dアニメーションで描いたのが「トゥルーノース」(6月4日公開)である。

9年前、16カ国を巡って「幸福度」のカギを解き明かした異色のドキュメンタリー「happy しあわせを探すあなたへ」をプロデュースした清水ハン栄治さんが初監督した作品だ。

自身在日コリアン4世の清水監督は日米韓を巡って亡命した元看守や脱北者に取材を重ねている。過酷な運命に見舞われる登場人物の造形についてはデフォルメし過ぎず、リアルにし過ぎずのバランスに心を配ったという。

主人公の一家は「在日朝鮮人の帰還事業」で北朝鮮に渡り、平壌で比較的裕福に暮らしている。が、父親が突然逮捕され、連座制で母親とまだ小学生の兄妹も収容所に送られてしまう。

極寒、子どもたちにも課される強制労働、公開処刑……収容所の実態は凄惨(せいさん)だ。数多くの証言を聞いた清水監督は「リアルに表現し過ぎたらホラー映画みたいになってしまう」と言う。

手の込んだオリガミのように見えるキャラクターには程よい丸みがあって、感情移入しやすい。極限状況だからこそのユーモアもすっと心に入ってくる。

心優しい母ユリのもと、兄ヨハンと妹ミヒは過酷な環境に耐え、何とか正気を保つ。が、長い年月が流れ、ヨハンは食料確保のために看守に近い監視グループに入って仲間を裏切り、やがては非道な行動も取るようになる。収容者たちの恨みの矛先は母親に向けられ、その死を招くことにもなってしまう。死の際に母は「誰が正しいか間違っているかということではなく、誰になりたいか、自分に問いなさい」と言い残す。

改心したヨハンは収容者たちの助けとなり、死にゆく者たちの心の平安に腐心し、人間としての尊厳を取り戻していくが……。

監督はタイトルに2つの意味を込めたという。ひとつは「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」。そしてもうひとつが英語慣用句としての「絶対的な羅針盤」だ。過酷な環境に人生の意味を見いだすヨハンにその思いが重なっている。

収容所の中には拉致された日本人もいて「赤とんぼ」が歌われるシーンもある。一方で、裏山の大崩落、ミヒの妊娠……とアクシデントが重なり、ヨハンを中心とした脱走計画もひそかに進行する。過酷で単調な作業を強いられる収容所でも人間らしい多様性は抑えきれない。

総じて暗い映像だが、背景は水墨画のように美しく、ミヒが摘んでくる花の差し色が際立つ。ジリジリとする展開の果てにラストはほのかな希望を感じさせる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)