伊坂幸太郎さんの「マリアビートル」を読んだのは10年くらい前になる。センテンスの短い、さらっと読みやすい文体。こちらの想像力が乏しいからか、他の殺し屋シリーズ2作品同様に光と影の境界線があいまいなモノトーン映像が頭に浮かぶ。舞台が新幹線だから、シンプルな内装が格闘の息づかいを際立てる効果があったようにも思った。

「デッドプール2」のデヴィッド・リーチが監督し、ブラッド・ピットが主演した「ブレット・トレイン」(9月1日公開)は、その「マリア-」の舞台となった東京→盛岡の新幹線車内を東京→京都に置き換えて、ジャパネスクな感じを前面に出している。大ボスが待つ京都へ向けて繰り広げられる大乱戦-カラフルな映像はまるで別世界だが、個性的な殺し屋たちのキャラクターは、不思議なくらい原作イメージにしっくりと重なっている。

さまざまな因縁が絡まりあい、生死を懸けた戦いを繰り広げながら、なぜか悲壮感のない独特のエンタメ世界は、別次元のカラフル映像に移し替えられて、一層楽しい。

ブラッド・ピットが演じるのは、メインの殺し屋キャラの1人レディバグ(天道虫)。自らの不運を嘆きながら、ひょうひょうと窮地を脱していくこの男の比重を増すことで、作品全体が軽やかに乾いた感じになっている。

リーチ監督は「ファイトクラブ」(99年)などの作品で、ピットのスタントダブルを引き受けていた縁があるそうで、新幹線車内の限られた空間を、まるで格闘技の変形リングのように見せ、いかにも「プロの殺し屋」という多彩でシャープな動きを付けている。ピットも原作キャラに寄せてほどよく肩の力を抜いている。

コンビ殺し屋のタンジェリン(アーロン・テイラー=ジョンソン)とレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)のやりとりにも、原作のままに「きかんしゃトーマス」のウンチクが絡み、監督の伊坂作品へのリスペクトを感じさせる。

中学生の殺し屋「王子」は女子学生プリンスに置き換えられているが、子役出身のジョーイ・キングがこましゃくれたイヤな感じをうまく出している。

激情家の木村には日英ハーフのアンドリュー小路。その父親が原作とは趣を変えて剣術の達人として登場。その役を真田広之が日本的なものを象徴するキャラとして演じ、隙の無い殺陣で作品のクオリティーを支えている。

そして、レディバグの指示役マリアを演じるのがサンドラ・ブロックで、文字通りの花を添えている。

「豪華な俳優さんたちが生き生きと暴れていることに興奮しました!」という原作者・伊坂さんのコメント通り、文句なく楽しい120分だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)