ハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン被告が、自らの権力や地位を利用して複数の女優やモデルらにセクハラ行為を行っていたことが公になってからちょうど1年。昨年10月にニューヨーク・タイムズ紙が報じたセクハラ告発記事を発端に始まったハリウッドのセクハラ問題は、ワインスタイン被告が逮捕・起訴された今も尾を引いています。アンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトローら大物女優らも同被告からのセクハラを告白したことでメディアは連日大騒ぎとなり、セクハラを告白する#MeToo運動は猛烈な追い風を受けて盛り上がり、俳優ケビン・スペイシーやダスティン・ホフマン、ブレット・ラトナー監督ら過去のセクハラ行為を告発される人が続出。そしてその動きはハリウッドを超えて飲食業界や政界などにも広がりを見せ、先日はトランプ大統領によって最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏が80年代初めに起きた集団レイプ未遂事件の被害者から告発される事態も起きるなど、1年経った今も毎日のようにセクハラ関連のニュースがメディアを賑わせています。

この1年を振り返ると、多くの有名女優やセレブがセクハラ撲滅を訴え、同時に多くの俳優や監督ら著名人が過去の不適切な発言や行為で謝罪に追い込まれた1年であったと言えます。おそらく多くの男性が「次に告発されるのは自分かもしれない」と戦々恐々した日々を送っていたことでしょう。それは加害者だけでなく、被害者も同じで、同被告からレイプされたと最初に名乗りを上げた女優の1人であるアーシア・アルジェントが、今度は自らが2013年に当時17歳だった少年と性的行為を行ったことを暴露される事態に発展。映画で親子を演じた2人は私生活で恋仲となったようですが、カリフォルニア州では18歳未満との性行為は犯罪で、本人は否定したものの後に証拠となる写真などが流出し、口止め料を支払っていたことも明らかになるなどし、#MeToo運動支援者を失望させました。

そんな中、ついに今年5月にワインスタイン被告は強姦と犯罪性的行為および性的虐待の容疑で逮捕・起訴されました。同被告から被害を受けたと申し出ている女性は実に80人を超えていますが、その多くは物的証拠が残っていなかったり、すでに時効が成立していたりなどして刑事処分が困難なことから起訴には至っておらず、現在裁判で争われているのは3人の女性に対する6つの容疑のみ。終身刑になる可能性も指摘される中、このほど検察は最初に同被告からのセクハラを訴えた女優の1人であるルシア・エバンスの訴えを棄却しました。エバンスはニューヨーカー誌の取材に対し、女優志望の学生だった2004年に同被告のオフィスでオーラルセックスを要求されたと主張していましたが、検察側は役を得るためにエバンスが自発的に胸を見せてオーラルセックスに応じたとする友人女性の証言を入手し、これに基づいて訴えを棄却したようです。ワインスタイン被告は現在、引き続き他の2人の女性に対するオーラルセックスを強要した罪などに問われていますが、弁護団はこれらの訴訟も同様に取り下げを求めていく構えを見せています。

まだ裁判は続いていますし、過去のセクハラによって仕事を干される人もたくさんでていますが、この1年間で世の中のセクハラに対する認識が大きく変わったことだけは間違いありません。CNNテレビによると、#MeToo運動が広がって以降、一般の職場での性的嫌がらせの訴えも倍増していると言います。ワインスタイン被告を巡ってはロサンゼルスや英ロンドンでも刑事犯罪として別の女性に対する性犯罪で捜査が進んでおり、今後も何が起こるか分かりません。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)