ディズニーによる21世紀フォックスの買収が米西海岸時間で先月19日に完了し、これによってディズニーがハリウッドにおける一大帝国を築くこととなりました。713億ドルという巨額買収の目的は、将来のストリーミング事業を見据えてのこと。今年後半に独自のストリーミングサービス「Disney+」を開始するディズニーにとって21世紀フォックスの映画やテレビ番組の豊富なラインアップは魅力的で、買収によって21世紀フォックスが所有していた全ての知的財産を有することになったのです。ディズニーはストリーミング配信大手のネットフリックスからすでに自社作品の引き揚げを始めており、いよいよハリウッドで本格的なストリーミング戦争が起きると予想されています。

ディズニーは2006年に「トイ・ストーリー」シリーズや「ファインディング・ニモ」(03年)などで知られるCGアニメーションスタジオのピクサーを買収。さらに09年には「アイアンマン」や「スパイダーマン」「キャプテンアメリカ」などマーベルコミックのキャラクターなどの権利を有するマーベル・エンターテイメントを買収し、これによって「アベンジャーズ」シリーズなど多くのヒーロー映画を製作する権利を有しました。そして2012年には「スター・ウォーズ」シリーズで知られるルーカスフィルムを40億5000万ドル相当で買収。ピクサー、マーベル、スター・ウォーズをラインアップに加えたことで、映画館での観客動員数でも圧倒的な立場を築いていますが、今回の買収で北米での興行の約4割をディズニーが占める計算になるといわれています。また、ストリーミング配信サービスにおいても、「アバター」(09年)や「タイタニック」(97年)、「X-Men」シリーズなどの人気コンテンツの配信も可能になり、ネットフリックスやアマゾンらライバルとも張り合うことができるというわけです。

業界にとっては今回の買収でハリウッドのメジャースタジオが6から1つに減ることになり、ディズニー帝国の巨大化はパワーバランスにも大きな影響を及ぼすことが懸念されていますが、買収を一番喜んでいるのは実はマーベルコミックのファンたちかもしれません。というのも、これまで21世紀フォックスが所有していた「X-Men」や「デッドプール」シリーズなどのマーベルコミックのキャラクターの権利がディズニーに移行したことで、ディズニーが有するマーベルキャラクターとの共演が可能となったからです。マーベルキャラクターの一部は21世紀フォックスとソニー・ピクチャーズが権利を所有していたことから、これまではかなわなかった夢の共演が実現する可能性は十分にあります。

一方で、21世紀フォックス内では大幅な人員削減が避けられないという懸念もあります。すでに4000人規模の大型リストラが行われるとの報道もあり、21世紀フォックスは名前のみ残る形となってしまいそうです。「シェイプ・オブ・ウォーター」(17年)や「スリー・ビルボード」(17年)、「スラムドッグ$ミリオネア」(08年)などオスカーも受賞している上質なインディペンデント系に近い作品を製作してきたフォックス・サーチライト・ピクチャーズが、ディズニー傘下となった今後は今までのようなスタンスで映画製作が続けられるのか危惧されています。すでに、ディズニーはフォックスの映画部門の1つで、「プラダを着た悪魔」(03年)や「ドリーム」(16年)などを手掛けてきたFOX2000を廃止する方針だと伝えられており、21世紀フォックスは大人向けの作品を作り続けることが今後は難しくなっていきそうです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)