新型コロナウイルスの影響で2か月以上も映画館が閉鎖され、新作映画やドラマの撮影も全面ストップしているハリウッド。映画の都ハリウッドがあるロサンゼルス(LA)ではカリフォルニア州内のおよそ半数にあたる4万4000人を超える感染者が出ており、自宅待機命令は少なくとも7月初旬までは続く見通しで、撮影再開は当面先になるだろうと予想されています。そんな中、全米全ての州で経済活動が再開され始めたことを受け、ハリウッドでも撮影再開に向けた動きが活発化してきました。

経済再開が始まったことで2カ月ぶりに車の渋滞も見られるように
経済再開が始まったことで2カ月ぶりに車の渋滞も見られるように

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム州知事が先週、業界のトップらと会合を持ち、撮影再開に際してどのような形で撮影を行うのか、新たなガイドラインを提出するよう求めたと伝えられています。ハリウッドではロックダウンによって70万もの人が職を失ったといわれ、この夏に劇場公開を予定している新作映画も片手で数えられるほどという状況の中、ようやく動き出したことに期待を寄せる人が多い一方で不安要素もあります。

撮影が再開されたとしても、これまでのように大勢のスタッフが一堂に会して撮影することは難しく、現場に入れる人数を必要最低限に制限することは避けられず、雇用が元に戻るには相当時間がかかると予想されます。また、ウイルスそのものが消えてなくなったわけではないため、常にクラスターの危険と隣り合わせで、役者やクルーが安全な環境で撮影が行えるよう様々な規制が敷かれるのも避けられません。

検温やこまめな掃除・除菌、マスクや手袋の着用だけでなく、撮影中はホテルを貸し切って隔離生活をさせることや、これまでビュッフェスタイルだった食事を個別提供にすることなど、様々なガイドラインが示されるものと想定されています。

また、ソーシャルディスタンスが推奨される中でラブシーンの撮影をどうするのか、戦闘シーンや大勢のエキストラが必要となる群衆シーンはどうするのか、劇中でもマスクやソーシャルディスタンスが当たり前となるのか、など様々な課題もあります。他にも撮影中に感染者が出た場合の補償をどうするのかといった問題もあります。保険会社は新型コロナウイルスによる撮影中断や損害は補償しないと言われており、現場入りする前に全員が検査を受けることなども検討される可能性があります。

そんな中、ウイルス封じ込めに成功したニュージーランドでは映画の撮影再開にゴーサインが出され、ジェームズ・キャメロン監督の「アバター」(09年)の続編の撮影が今週から始まると伝えられ、キアヌ・リーブス主演の「マトリックス4」も7月初旬にはドイツで撮影が再開される見通しだといわれています。また、米国内でも先月末から一足早く経済活動を再開させたジョージア州アトランタにある、プロデューサーで映画監督のタイラー・ペリーが所有する「タイラー・ペリー・スタジオ」が、7月に撮影を再開させることを表明しています。セットに入れる人数制限のほか、検温や検査、スタッフの一部はリモートワークにする、衣装や小道具、撮影機材などの共有の禁止など独自ルールを設け、安全対策を講じた上で再開するといわれています。

一方、「トランスフォーマー」シリーズなどで知られるマイケル・ベイ監督が、新型コロナウイルスによるパンデミックをハリウッドで初めて映画化することが決まり、ロックダウン中のLAで1ヶ月以内に撮影を開始すると伝えられています。ウイルスが変異してさらに深刻な状況になっている2年後の世界を描く「ソングバード」というタイトルの作品は、ソーシャルディスタンスを守るため、出演者が直接顔を合わせるシーンはなく、同じ部屋に人が一緒に入らずに撮影を行うなど感染防止対策が取られると伝えられています。おそらくコロナ後最初にLAで撮影される映画となると見込みですが、アフターコロナ時代の新たな撮影手法は業界の注目を集めることでしょう。これを機にハリウッドも再開に向けてピッチが早まることになるかもしれません。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)