来週はいよいよ、今年のアワードシーズンの締めくくりとなるアカデミー賞のノミネーションが発表されます。

今年はスティーブン・スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」や、ウィル・スミス主演の「ドリームプラン」、絶大な人気を誇るSF小説を映画化した「DUNE/デューン砂の惑星」など話題作のノミネートが期待される中、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」の躍進が話題になっています。

「ドライブ・マイ・カー」は、2014年に刊行された村上春樹氏の短編小説集を映画化したもので、西島秀俊演じる妻を亡くし喪失感を抱える俳優が、演劇祭に参加するため訪れた広島で寡黙な専属ドライバーと出会い、これまで目を向けることのなかったことに気づかされていくストーリーです。

「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(21年12月23日撮影)
「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(21年12月23日撮影)

すでに全米映画批評家協会賞やロサンゼルス映画批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、ゴールデン・グローブ賞をはじめとする多くの賞を受賞しており、今年のアカデミー賞では国際長編映画賞(旧外国語映画賞)ノミネートが確実視されています。しかも本命視されている国際長編映画賞だけに留まらず、本命の作品賞や監督賞にも名を連ねる可能性さえあるといわれており、その快進撃に注目が集まっています。

作品賞にノミネートされれば、日本の作品としては初の快挙となりますが、その可能性はどのくらいあるのでしょう。アカデミー賞作品賞のノミネート枠はこれまで5~10作品と流動的でしたが、今年度から10作品に固定されることになりました。そのため、これまでならノミネートからこぼれてしまっていたであろう作品にもチャンスが出てきます。

また、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が作品賞を受賞するなど、近年は多様性を重視する風潮が強まっており、多様性を反映した会員も増えていることなどから、そんな時代背景も追い風になる可能性があります。さらに、今年の前哨戦や各国の国際映画祭でこれまで実に50を超える賞を受賞していることも、作品の評価が高いことを裏付けています。

これまで受賞した主な賞を見てみましょう。

・全米映画批評家協会賞 作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞

・ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞、脚本賞

・ニューヨーク映画批評家協会賞  作品賞

・ゴールデン・グローブ賞  非英語作品賞

・ボストン映画批評家協会賞 作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞

・カンヌ国際映画祭 脚本賞、国際映画批評家連盟賞など4冠

・トロント映画批評家協会賞 作品賞、脚本賞、国際映画賞


錚々たる賞で外国語作品賞だけでなく、作品賞や脚本賞、監督賞を受賞していることが分かります。さらに西島は全米映画批評家協会賞とボストン映画批評家協会賞で主演男優賞に輝いており、受賞は逃したものの、その他多くの賞でノミネートを果たし大きな評価を得ています。

バラエティー誌のオスカー予想では、ノミネートの5枠には入っていないものの、次点に西島の名前をあげています。また、複数の批評家によるオスカー予想「The BuzzMeter」では作品賞で10位、監督賞で5位タイに「ドライブ・マイ・カー」が入っており、主演男優賞でも8位タイに西島の名前をあげています。

ロサンゼルス・タイムズ紙は「ドライブ・マイ・カー」は作品賞ノミネートに値しますか? と題し、同紙の映画批評家による「2021年の最優秀作品だと思うのは、私だけではありません」と大絶賛する特集記事を掲載しています。また、同紙は予想とは別に批評家が「自分ならこう選ぶ」という独自の候補リストも発表しており、そこでは作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞のほか、西島の主演男優賞に加えて岡田将生も助演男優賞に選ばれています。

大本命といわれる国際長編映画賞に順当にノミネートされて受賞すれば、日本作品としては2009年に外国語作品賞に輝いた「おくりびと」以来13年ぶりの受賞となりますが、作品賞と国際映画長編賞のダブル受賞となれば2020年の「パラサイト 半地下の家族」に並ぶ快挙です。また、濱口監督が監督賞にノミネートされれば、1986年に「乱」でノミネートされた黒沢明監督以来実に36年ぶりの大金星となります。気になるノミネート結果は、現地時間8日朝に発表されます。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)