懐かしい舞台に再会できた。ニール・サイモンの自伝的作品「ブライトン・ビーチ回顧録」。サイモンは2018年に91歳で亡くなった米国の人気劇作家で、「ブライトン」は85年にパルコ劇場で初演された。サイモン作品は当時のパルコ劇場の人気シリーズで。「おかしな二人」「第2章」「映画に出たい!」に続く4作目だった。

1930年代のニューヨークの小さな家に住むユダヤ人一家の家族物語。思春期真っ盛りの14歳の少年ユージンを主人公にした青春成長物語であるとともに、いろいろな問題を抱えて、時には対立しながらも絆を深めていく家族の姿を描いている。初演を見て以来、大好きな作品だった。文学座の公演はあったものの、パルコ制作では実に36年ぶりの上演だった。

今回の舞台でユージンを演じたのはSexy Zone佐藤勝利。ストレートプレー初挑戦だったそうだが、まさに14歳の少年になり切っていた。

野球選手や作家になるのが夢だが、性に目覚めて女の子の裸に異常なほどの執着を見せる。母親に反発しつつも、アイスクリームを買ってきてと頼まれると、勇んで駆けだしていく。その一挙手一投足がほほえましく、思春期が遠い過去になった人間にも、その時の情景をよみがえらせてくれた。はまり役だったし、俳優として一つの節目となる作品になったに違いない。

懐かしいと言えば、井上ひさし作のこまつ座「雨」も10年ぶり再演だった。前回は市川猿之助(当時は亀治郎)が主演したが、今回は山西惇。江戸の橋下で暮らす金物拾いの徳が、行方知れずの山形の紅花問屋の当主にそっくりと言われ、山形まで旅して当主になりすます。美しい妻も手に入れ、人を殺してまで当主になり切ろうとするが、残酷な結末が待っていた。

前回、山西は徳に殺される男娼の釜六を演じていた。そのため、「(猿之助の)声や姿を自分の中から消すのが大変でした」という。強烈に残っていた徳を演じた猿之助の残像を消してから、自分なりの徳を作り上げていったという。

その言葉通り、山西は徳に身も心もなりすましたかのように舞台で生きていた。京大卒で、最近はクイズ番組の常連ともなったけれど、本領は舞台にある。山西・徳の「雨」はお勧めです。【林尚之】

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)