来年2024年に創立110周年を迎える宝塚歌劇団が大きな岐路に立っている。宙組公演中の9月30日に宙組に所属する劇団員の女性(25)が亡くなった問題で、10日に遺族の代理人が会見し、「過重労働や上級生によるハラスメントで心身の健康を損ない、自死につながった」と主張した。さらに弁護士を通して公表された遺族のコメントにある「宝塚歌劇団に入ったこと、何より宙組に配属されたことがこの結果を招いたのです」という言葉が重く響いてくる。

宝塚歌劇を40年以上見てきたけれど、決して順風満帆ではなかった。1970年代に「ベルサイユのばら」で大ブームを巻き起こした後、観客動員で苦戦した1980年代には、親会社の阪急グループ内でプロ野球の阪急ブレーブスとともに2大不採算部門とされた。金融機関から「どちらかを手放すように」との要求を突き付けられ、結局、阪急ブレーブスをオリックスに売却した経緯がある。その後、宝塚歌劇は低迷を脱し、1998年には宙組も誕生して「5組体制」となった。東京での通年公演が実現し、「エリザベート」など海外ミュージカルを積極的に上演するなど、東京では100%の観客動員を誇ってきた。

一方で、数年前に宝塚音楽学校の下級生に課されていた「先輩が利用する阪急電車に一礼する」「遠くの先輩に大声でのあいさつ」「先輩への返事は『はい』か『いいえ』に限定」という前時代的なルールを廃止した。「ハラスメントに厳しい状況にかんがみた」というのが廃止の理由だったが、それは小手先のものでしかなかった。歌劇団内には時代に合わない上下関係の厳しさがいまだに残り、最悪の事態を招いたといえるだろう。

反省もある。今年2月に週刊文春が、亡くなった劇団員を巡る「いじめ問題」を報じた時、多くのマスコミは沈黙した。もし、後追いで新聞などが「いじめ問題」を取り上げていたら、結果は違ったかもしれない。宝塚歌劇団による劇団員らへの聞き取り調査の結果の公表とともに、今後に向けた抜本的な改革への動きにも注目していきたい。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)