スポーツは偏見の壁を突き破れるのか。大坂なおみの黒マスク姿に差別の現実を突きつけられたばかりだが、少しだけ前向きな気持ちにさせてくれる作品だ。

連合軍の捕虜となったドイツ軍兵士バート・トラウトマンは空挺(くうてい)部隊の精鋭。収容先の英国では憎きナチスの象徴だ。実は「僕には選択の余地がなかった」と明かす心優しい青年でもある。そんな彼が終戦後キーパーとしての能力を買われて英国サッカー界入り、やがてはトップリーグでの優勝に貢献した実話が基になっている。

ホームゲームでの大ブーイング、ユダヤ人コミュニティーの抗議運動…環境は過酷だ。それでも、彼はひた向きにプレーを続ける。好プレーと成績の積み重ねがしだいにサッカーファンの心を動かしていく。

と、書くとまるできれいごとだが、映画は彼の心奥にも迫っていく。戦時中には人に明かせない秘密があり、その罪の意識こそが彼の切れない忍耐の元にある。

主演デヴィット・クロスは同様に奇跡の実話を描いた「栄光のランナー 1936ベルリン」(16年)でも、スポーツマンシップあふれるドイツ選手を演じていて、妙な因縁を感じた。【相原斎】

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