将棋の最年少5冠、藤井聡太王将(竜王・王位・叡王・棋聖=20)が羽生善治九段(52)の挑戦を受ける、第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第3局が金沢市の「金沢東急ホテル」で行われています。大阪府高槻市での第2局を現地で見守った日本将棋連盟専務理事の脇謙二九段(62)は、今回のタイトル戦での羽生九段の戦い方について「吹っ切れたように見える」と話します。

近年、人工知能(AI)の将棋ソフトを使った序盤研究が進み、将棋の質が変わるなか、苦闘するベテラン棋士は多くなりました。羽生九段も例外ではなく、昨年度の勝率は4割にも満たず、棋士人生で初めて負け越し。29期連続(名人9期含む)で維持した順位戦A級から陥落するなど低迷しました。

本年度は一転、6割5分近い勝率で好調です。王将戦7番勝負第2局では藤井王将にも負けない序盤研究と終盤力で快勝しました。

「(将棋ソフトの研究で)ダメなものは切り捨て、自分が受け入れることができるものを採り入れているように見えます。割り切って、吹っ切れたように見えます」と脇九段。将棋界のレジェンドは試行錯誤を繰り返しながらも、AIの発想を吸収し、確実にアップデートしたようです。

第2局の会心譜を間近で見守った脇九段は「AIにこだわりすぎず、自分の指したい手を指す。ベテランはベテランのやり方がある。そんなふうに見えました」と話します。

指し手だけではなく、醸し出す雰囲気にも「変化」があったようです。

「若々しい。表情や雰囲気がすがすがしく、全盛期の羽生さんを見ているようだった」

羽生九段の強さは“羽生マジック”とも言われる常識にとらわれない一手で形勢をひっくり返す終盤力です。脇九段は「もともと中終盤に強い羽生九段ですから、序盤の迷いが吹っ切れれば…」と復活の確かな足音を感じたようです。

時代の後継者との紙一重の攻防戦。52歳。「吹っ切れた」羽生九段がたどり着いた「新境地」があります。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)