月組の7年目、英(はなぶさ)かおとが、ウィーン発のミュージカル「I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-」新人公演で初主演をゲットした。歌、芝居の表現力に定評があり、若手ながら実力派。新人最終7年目でやっと、センターに立つ大器の身上は「楽しむ」だ。兵庫・宝塚大劇場は今月22日、東京宝塚劇場は12月12日。

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最後の新人公演でつかんだ主演の座。重圧を押し殺して「楽しむ」とテーマを掲げた。「お話をいただいたときは、心臓がドキドキ。でも、夢見ていたことなので」。3年目に「舞音」新人公演で前作で退団した美弥るりかの役に抜てきされた。安定した実力ゆえ、下級生時代から上級生の役が多かった。トップ珠城(たまき)りょうが率いて若返った月組で、力を蓄えてきた。

「最近は公演もお稽古も毎回、楽しむことが大切だと思っています。主演される方はされる、できない方もたくさんいらっしゃる。そういう世界だから」

とはいえ、受け身で過ごしてきたわけではない。

「なかなか役が頂けなくても、あきらめたら終わりだと思って、誰よりも朝早くから来て練習を。チャンスをつかむために、人がしていない努力をしなきゃいけない。努力をするのが当たり前の世界で、自分はどうしていくかを考えて」

劇団レッスンは「片っ端から」出席した。努力することも才能だが、昔から備わっていたわけではない。

「むしろ何も続かないタイプ(笑い)。初めてやりたいと思ったのが宝塚。子どものころはバレエ、ピアノ、嫌々やっていて…。バスケットボールを始めて、バレエもやめて、さらにそのバスケットもやめて…」

中学、高校時代は音大受験を意識。ピアノ、声楽の練習も始めた。その頃、宝塚歌劇を観劇。「この舞台の端でもいいから立ちたい」と衝撃を受けた。ミュージカルには興味があった。

「人前で歌う、踊る人はキラキラしていて、そういう人になりたいって。家で『1人ミュージカルごっこ』みたいなのも(笑い)」

2回目の受験で合格し、夢へ踏み出した。「All for One」新人公演で三枚目の役を経験し、考えの狭さに気づいた。

「お稽古が楽しくて。それまでは1人で思い悩んでいたけれど、幅が広がらない。楽しむといろんな見方ができると気づいた」

懐の広さ、芝居の奥行きも身についていった。

「今まで主役の方に対して、どう作るかを考えていましたが、自分が真ん中に立つにはどうすればいいか。珠城さんから学びたい。人前で歌うことが初めてに近いので、ドキドキです」

今作は、ウィーン発ミュージカルの日本初演。両親が手がける老舗ホテルを舞台に、「五つ星」獲得を目指す青年が主人公。コミカルな要素も強い作品だ。

「御曹司ですが、ちょっとチャラチャラして、崩れているというか。コメディーはすごく好きです」

目指すのは正統派男役。「どこにいても目がいく華のある男役に」。芯(しん)は変わらない。初主演を得ても、浮かれる気配はない。「歩いていたら、振り向かれたりもしますけど(笑い)。それで(浮かれて)変わったら、今まで何していたんだ? ってなる」。歩幅、スタンスを乱すことなく、階段はひとつずつ上がる。【村上久美子】

◆「I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-」 日本オーストリア友好150周年記念。「エリザベート」「モーツァルト!」などを生み出したウィーン劇場協会が、17年9月に制作したミュージカルの日本初演。物語の舞台はウィーンの老舗ホテル。青年ジョージは、伝統を守る両親と対立する革新的案を掲げ、悲願の「五つ星」獲得を目指す。その最中、人気女優エマ・カーターがお忍びで来訪。従業員のSNS投稿から混乱する。

☆英かおと(はなぶさ・かおと)10月28日、岡山県倉敷市生まれ。県立倉敷古城池高を経て、13年入団。月組配属。前作で退団した美弥るりかが主演した「アンナ・カレーニナ」(今年1月)で、主人公の親友役に抜てき。さわやかなルックス、確かな歌唱力、表現力に定評。前作「夢現無双」新人公演は、月城かなとの役を好演した。身長172センチ。愛称「うー」。