はじめまして。今回より俳優研究所コラムを担当させていただきます。映画監督と偉そうな感じのアイコンですが、まだまだ若輩者であります。映画やCMにドラマ、PVと業界の端の方でちょろちょろと活動中です。今回のコラムのきっかけは南青山の経営するバーで夜な夜な俳優のことを考えながらコースターに似顔絵を書いていたことからスタート。いつか敬愛するナンシー関さんになぞられ、ナンシー谷といわれるまで頑張ります。1回目はもちろんこの方、谷映画に3本主演してもらっている馬場良馬(ばば・りょうま、35)さんです。


映画監督・谷健二
映画監督・谷健二

馬場良馬。初めて見たのはいつだっただろうか?今思えば、ぼんやりと見ていたスポーツ紙芸能面の最年長ヒーローみたいな記事だった気がする。当時28歳、若手俳優の登竜門のヒーローとしてはかなり遅い登場ではある。ちなみにネットで最年長ヒーローを検索してみると、山下真司。そういうことではない。

それから数年経ち、自身のデビュー作(映画「リュウセイ」)のキャスティング候補として再びその名前を聞くこととなる。きっかけは、懇意にしているプロデューサーとの忘年会という名の飲み会である。年末で仕事もさっぱりした中、翌年撮影の主役(の一人)に誰かいい俳優いないですかね?と相談したところ、イベントでチケットが即完する子がいますよ、と教えてもらったのが人生2回目の馬場良馬。ちなみに後日談。年末で仕事も落ち着きほっこりしていたのか、お酒を飲みすぎたらしく、次の日どうしても名前を思い出せない。竜馬?良馬?名字なんだっけ?坂本だったけ?と検索すると歴史上の人物に加え、3年B組的な先生も出てきて大混乱。

無事にキャスティングが終わり、いよいよ初対面。代々木公園の衣装合わせの会場で本人を待っていると、数十メートル先からでもわかるほどのとにかく顔の小さい男がやってくる。その映画で彼が演じる役は、東京で失敗して田舎に帰ってくる男。そこでいくつも用意した衣装が合わない事件が起こる。とにかく横のサイズが合わない、百戦錬磨のスタイリストも頭を抱えている。モデル体形すぎて、いわゆる既製品が体に合わない。もちろんそんなに予算もないので、女性ものなどもうまく取り入れながらも解決、と映画の話ではなく馬場良馬。はじめて本人と会って、事前にチェックした映像作品でのキラキラ感はなく、かといって若手俳優特有のドヤ感があるわけではなく、物静かだが、どこか芯をもっている、これがはじめて会った時の印象である。


馬場良馬を描いたコースター
馬場良馬を描いたコースター

話はぐいっと進んで2020年。デビュー作となった「リュウセイ」が高崎映画祭をはじめ全国で上映。そのおかげもあって今でもなんとか映像業界にぶら下がっている。あれから約7年、馬場君(ここからは君付けで)とは、「U-31」「一人の息子」と主演してもらい、最新作「渋谷シャドウ」(11月28日公開)にも重要な役?で出てもらっている。戦隊ヒーローから本格的に俳優になる中、順調すぎるキャリアと思いきや、テレビドラマでバリバリとはなかなかいかない。主戦場は舞台。最近はブームを起こしている2・5次元舞台にも多数出演している。

キャリアのある俳優が嫌うであろう漫画やアニメの誰かを演じること。若い役者にとってはひとつの憧れかもしれないが、経験を積んだ俳優からしてみると、それはどこか滑稽にみえるのかもしれない(あくまで想像です)。だが彼はそこでも頑張っている。長い手足の圧倒的なスタイルと卓越した演技力で、若い俳優のファンまでをも魅了し続けている。そう、彼は既製品が似合わないのです!

最後に意味深なこのタイトル。馬場良馬、今では違和感ないが、初めて見る人は名前の中に馬が2つもあることに結構驚く。他に思いつくのは漢字ではないが、犬山イヌコさんぐらいである。しかも場に良といずれも競馬ファンにはなじみのある漢字である。このコラムを見てくれているであろうJRA関係者は、ぜひ彼にオファーして欲しい。彼は生まれ持っての“馬”の申し子であると断言します。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。最新作「渋谷シャドウ」が11月28日から公開予定。