ヤクザ映画。上京したての頃、友人に連れられて新宿南口にあった新宿昭和館によく足を運んでいた。いわゆるヤクザ映画が数本立てで上映されており、(高倉)健さんの作品をはじめ「仁義なき戦い」などもこの時に観賞。日々満ち足りない中、テレビの中に収まらないであろう俳優たちがスクリーンの中を所狭しと活躍する姿を見て、劇場を出た後は新宿の街を風をきって歩いていたような気がする。

現在公開中の「ヤクザと家族 The Family」。テーマは、変わりゆく時代の中で排除されていくヤクザとしての存在。タイトル通り、家族との関わりを描いた作品であり、主人公の綾野剛が20年にわたる3つの時代を1人で演じきる。「新聞記者」でアカデミー賞をとった社会派、藤井道人監督ならではの視点は鋭く、そしてとても温かい作品である。

ちなみにヤクザ映画の歴史について少し。はじまりはいわゆる任侠(にんきょう)もの、物語の最後に鶴田浩二や高倉健など義理人情に厚い主人公がたんかをきって悪者を倒すというのが主流だった。そこから「仁義なき戦い」に代表される実録シリーズになり、最近では半グレとの抗争など現実社会とリンクしていくものが多いと感じる。今回も暴力団対策法や暴力団排除条例がしかれた後の話になり、ヤクザ映画の歴史のひとつとして刻まれるのではないかと思う。またこちらも公開中の映画「すばらしき世界」と、2016年公開のドキュメンタリー映画「ヤクザと憲法」も同じ題材をテーマにしており、3本セットで見ることをお薦めする。

谷健二氏が描いた磯村勇斗の似顔絵 
谷健二氏が描いた磯村勇斗の似顔絵 

前段が長くなったが、今回は「ヤクザと家族 The Family」で、綾野剛がかわいがっていた小学生の大人役を演じた磯村勇斗を取り上げる。現在28歳、2015年の仮面ライダーゴーストにレギュラー出演。デビュー前はアルバイトをしながら小劇場を転々としていたとのことで、意外と苦労人なのかもしれない。

多数の作品に出ているが、印象に残っているのはドラマ「サ道」(テレ東系)。メインの3人のうちの1人で、キザでどこかひょうひょうとした役を演じていた。それ以外では日曜昼間のバラエティー番組での印象しかなく、今作品を見るまではたくさんいる若手俳優の1人としての認識であった。申し訳ない。

映画の中での最初のシーンは、地下格闘場でのアクションシーン。鍛え上げられた肉体に金髪姿、ヤクザではなくいわゆる半グレのリーダーとして登場。出所後の綾野剛を今も尊敬、やんちゃだけどそのまなざしは真っすぐで、敵対する組織の親分・豊原功補や刑事の岩松了とも互角以上に渡り合う。落ちぶれていくヤクザ組織をはた目に画面に登場するたびに、次は何をしてくれるのだろうかと期待感が増す。ドラマではなかなか味わえないワクワク感である。

それは04年の映画「血と骨」のオダギリジョーをどこかほうふつとさせ、テレビの枠に収まらず、大きなスクリーンでこそ魅力が発揮されるのかもしれない。映画館を出た後、久々に風をきって街を歩きたくなった。磯村勇斗、注目の俳優です。


◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。20年11月28日には最新作「渋谷シャドウ」も公開。

磯村勇斗(2021年1月11日撮影)
磯村勇斗(2021年1月11日撮影)