7月期の夏ドラマが出そろった。公正取引委員会、自衛隊、スポーツマネジメント、韓流リメーク、織田信長など多彩なジャンルがそろいながらも、視聴率は全体的に大苦戦の様相。各局に乱立しているバディものは、見応えの明暗がくっきりという印象だ。「勝手にドラマ評」51弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)。

◇   ◇   ◇

月9ドラマ「競争の番人」(C)フジテレビ
月9ドラマ「競争の番人」(C)フジテレビ

◆「競争の番人」(フジテレビ系、月曜9時)坂口健太郎/杏

★★☆☆☆

放射線技師の「ラジハ」や裁判官の「イチケイ」のように、マイナーお仕事は最初に具体的な活躍を見せてその世界に引っ張ってほしいのだが、口頭説明と新参者女子のドタバタだけで公取委が全然発動せず。地方ホテルの下請けいじめという地味な話を3話まで引っ張るテンポの悪さに戸惑った。大局観でモノを見る天才型の坂口健太郎がキレキレに描かれるのに対し、36歳の杏がドジばかりのルーキーみたいな引き立て役となり、W主演の看板が悲しい。せっかくの公取委なのだから、カルテルや談合でしか描けない人間模様や、そこと戦う人たちのスキルをダイナミックに見たい。

月10ドラマ「魔法のリノベ」(C)フジテレ
月10ドラマ「魔法のリノベ」(C)フジテレ

◆「魔法のリノベ」(フジテレビ系、月曜10時)波瑠/間宮祥太朗

★★★☆☆

住宅リノベーションの営業バディが、人生のリノベーションをお手伝い。敏腕営業の波瑠と、ガミガミ言われながらついていく間宮祥太朗のやりとりがいいテンポで笑う。「夫婦別寝」をテーマにした2話はいいお話。毎回お客さまの人生に触れながら、ワケありなバディが1歩ずつ成長していく姿も応援しがいがある。「まるふく不動産」社員たちのおふざけやドラクエな夢など、本線と関係ないシーンが多くて作品カラーが安定しないのは苦手。家より先に、こういう演出の不親切設計をリノベしてほしい。2話で発動した間宮くんの「わび力」最高。仕事を終え、2人で橋とか渡って帰る夕暮れの美しさは永遠に見ていたい。

火曜ドラマ「ユニコーンに乗って」(C)TBS
火曜ドラマ「ユニコーンに乗って」(C)TBS

◆「ユニコーンに乗って」(TBS系、火曜10時)永野芽郁/西島秀俊/杉野遥亮

★★★★☆

起業3年で窮地に陥ったIT系教育企業に、48歳サラリーマンが加入。デジタル×アナログの化学反応というテーマはいつの時代も推進力があり、デジタル世代を悪者にしない脚本も好感が持てる。「ITの力で平等に学べる場を」。CEO永野芽郁の理念に共感した西島秀俊が誰よりも青臭くてほっこり。その社会経験や対人スキルから何かを得て、ぐいぐい未知の扉を開けていく若者パワーがすがすがしい。ドラマは前に進むものなので、西島不在のエピソード0で流れを止めた3話に困惑した。奮闘する永野芽郁のうれし涙、悔し涙に共感でき、この会社がどうユニコーンに成長するか、最後まで見届けたい。

水曜ドラマ「家庭教師のトラコ」(C)NTV
水曜ドラマ「家庭教師のトラコ」(C)NTV

◆「家庭教師のトラコ」(日本テレビ系、水曜10時)橋本愛/中村蒼

★★★☆☆

家庭教師のトライ、じゃなくトラコが、お受験に悩む3つの家庭を個別指導。3家族の描き分けが類型的で遊川作品として新しいものはないが、「お金」を切り口にした過激な授業はさすがのオリジナリティー。1話は6歳児相手に「1万円で幸せになる方法」。1万円もらって買い物→ギャンブル→借金→督促まで追い込まれた6歳児が到達した幸せの形は納得感があった。考えることを放棄する「わかんない」にブチ切れる橋本愛先生が怖くて上等。彼女ならメリーポピンズなキャラのまま3通りの個別指導を表現できるはずで、コスプレドラマ路線で残念。この先テーマを広げすぎて、慌てて畳む展開にならないよう期待。

水10ドラマ「テッパチ!」(C)フジテレビ
水10ドラマ「テッパチ!」(C)フジテレビ

◆「テッパチ!」(フジテレビ系、水曜10時)町田啓太/佐野勇斗/白石麻衣

★★☆☆☆

ドロップアウトの若者たちが、絶対服従、罰則主義、連帯責任の“非日常”で覚醒していく男臭い成長物語を見たかったのだけれど、鬼教官はいないし訓練カリキュラムも特にない“日常”そのもの。自衛隊の設定が生かされず、けんか&友情ならラグビー部の夏合宿や企業の夏季研修とかでもいいのでは。国家防衛のために仕上げた町田啓太の体がシャワーシーンにしか生かされず、これじゃない感で客が離れて視聴率が4%台に。全面協力した防衛省の巻き添え感がすごい。フジには警察学校という舞台をしっかり生かした「教場」のような傑作もあるだけに、もっと自衛隊カルチャー濃いめで尊い汗を希望。

テレビ朝日木曜ドラマ「六本木クラス」
テレビ朝日木曜ドラマ「六本木クラス」

◆「六本木クラス」(テレビ朝日系、木曜9時)竹内涼真/新木優子/平手友梨奈

★★★☆☆

あの大ヒット韓国ドラマ「梨泰院クラス」をリメークする特大の挑戦。やるなら本家とは全然違う日本版で胸を借りてほしかったので、「再現度」という最もどうでもいいところを狙った戦略に泣きたい気持ち。同じせりふ、同じシーン、同じインテリアを中古予算でやりくり。逆に、本家を見ていない人にはストーリーと名ぜりふの数々を無料&短めダイジェストで楽しめてお得ではある。信念と気合で飲食業界のトップを目指す主人公に竹内涼真は盤石。今後の見応えは、竹内の右腕となる激辛ヒロイン、平手友梨奈次第。香川照之×土下座はもはやネタで、復讐(ふくしゅう)劇なのに笑ってしまう。むしろ早乙女太一の怪演の方が新鮮。

木曜劇場「純愛ディソナンス」(C)フジテレビ
木曜劇場「純愛ディソナンス」(C)フジテレビ

◆「純愛ディソナンス」(フジテレビ系、木曜10時)中島裕翔/吉川愛

★★★☆☆

実家に縛られた人生から逃げたい新任教師と、毒親から逃げたい女子生徒の禁断の恋。「高校教師」(93年)を知る世代としては禁断に一押し足りない気がするが、何かに寄りかかりたい孤独な2人のラブストーリーとして見れば楽しめる。中島裕翔が闇キャラ初挑戦。兄の七回忌という人生の岐路で「逃げよう。全部捨てちゃおう」と差し出された手を思わずとってしまう一瞬は文学的だった。このジャンルといえばピアノで、彼を音楽教師の設定にしたのはナイス。ピアノを弾く時だけは本当の彼がいて、その音色が分かるのは彼女だけなのだとふに落ちる。3話から舞台は5年後。既婚者となった彼との恋という普通の禁断系に。

金曜ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(C)TBS
金曜ドラマ「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(C)TBS

◆「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」(TBS系、金曜10時)有村架純/中村倫也

★★★★★

人物の魅力、テンポ、ストーリー性、会話の掛け合い。どれをとっても今期ずばぬけ。東大卒のパラリーガル(有村架純)と高卒の弁護士(中村倫也)という設定はおもしろい。石頭な正攻法で依頼にアプローチしていく石子と、フリーダムな行動に必ず意味がある羽男の丁々発止が生き生きとあり、W主演がちゃんと魅力的に見える。「カフェで無断充電」「子どもがゲームで課金」など、身近な法律相談をきっかけに本当の事件があぶり出され、立ち位置や見る角度によって真相が二転三転するストーリー運びもあざやか。自らもヘタレな弱点を抱えた2人が、まじめに生きる人たちをどう法律で救うのか。金曜日が楽しみ。

土曜ドラマ「初恋の悪魔」(C)NTV
土曜ドラマ「初恋の悪魔」(C)NTV

◆「初恋の悪魔」(日本テレビ系、土曜10時)林遣都/仲野太賀

★★★☆☆

総務課、会計課など捜査権のない警察職員4人のシロウト推理。そこに兄の死の謎、女子の心の闇、面妖な隣人、哲学者、不器用な恋など裏テーマを盛りまくってノンストップの会話劇を繰り広げ、トータル何の話か全然分からなかった自分にあせる。坂元裕二氏の脚本が信者向けすぎて、この豪華座組みで視聴率が3%台に。個人的には2話の「兄と僕では心臓と盲腸くらい違います」みたいな、カラッと笑える直球で人間の強さ、尊さを見たかった。柄本佑がNHKで裏かぶり。「小島じゃなくて小鳥です」がTBS西島秀俊と丸かぶり。「分かんない」という言葉に対する脚本家の向き合い方が、トラコの遊川和彦氏と真逆なのは興味深い。

日曜劇場「オールドルーキー」(C)TBS
日曜劇場「オールドルーキー」(C)TBS

◆「オールドルーキー」(TBS系、日曜9時)綾野剛/芳根京子

★★★★☆

元サッカー日本代表がスポーツマネジメント会社で第2の人生。陸上選手だった綾野剛の走る姿にスポーツドラマのリアリティーがあり、サッカー、スケボー、野球など週替わりのラインアップも飽きない。ちゃんとその世界の競技者に見える人を各話のゲストに配置し、マラソンの奥行きと感動を全身で表現した3話の田中樹(SixTONES)は今期のゲスト俳優賞。スポーツマネジメントという題材に新鮮な人間模様があるだけに、主人公のじめじめした腰掛け状態に4話も付き合わされたのはしんどかった。草サッカーでの引退試合は、夏を実感させてくれるいいひとコマ。芳根京子ちゃんがサッカー上手でかわいかった。

日曜ドラマ「新・信長公記」(C)NTV
日曜ドラマ「新・信長公記」(C)NTV

◆「新・信長公記-クラスメイトは戦国武将-」(日本テレビ系、日曜10時半)永瀬廉/山田杏奈

★★★☆☆

戦国武将のクローンたちが高校に集結し、学園最強の座を争う。信長役の永瀬廉のほか、三浦翔平、満島真之介、小沢征悦、濱田岳ら大河ドラマみたいな豪華キャストでばかばかしい学園ドラマをやっていて、今どき貴重なB級珍盤。まず話し合いという上杉謙信、トイレ籠城で風林火山な戦いぶりの武田信玄など、おなじみの個性が無節操に火を噴いて笑える。原作マンガのクールな人物像に永瀬廉ははまっており、戦いに興味がないという設定が天下統一にどう作用するか。これだけのメンバーを集めたプロデューサーがいちばん怪力かも。この手のテイストが好きな人にはおすすめ。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)