「ハイ・コロラトゥーラ」という高難度の声楽テクニックを正確に操り、世界的な評価を受けるソプラノ歌手・田中彩子(35)が大阪市内で日刊スポーツの取材に答え、3枚目のアルバム「ヴォカリーズ」(9月25日発売)と、全国5カ所を巡るリリース記念ツアーをPRした。

10代で単身ウィーンに留学すると、22歳でスイス・ベルン州立歌劇場で日本人初そして同劇場最年少でソリスト・デビューを飾り、大きな話題を呼んだ。最近では、7月にボクシング村田諒太(33=帝拳)がWBA世界ミドル級王者に返り咲いた一戦で日米国歌独唱を担当するなど活動の幅を広げ、ニューズウィーク誌で「世界が尊敬する日本人100」にも選ばれた。「今年、日本で過ごした時間と、ウィーンに来てからの時間がちょうど同じくらいになりました」と話すように音楽の都に軸足を移して飛躍、いまや日本以上に世界での知名度が高い。年に2、3回は帰国するというが、「今は知っている人がいる場所が、帰って来たと思える場所。どこの国ということではなく、バランスが大切だと感じています」。それでも先日、地元関西でうどんを食べたときに、「だしの味を体が覚えていて、帰ってきたという気持ちになりました」と笑う。

その美貌はもちろん、音楽の才能でも聴く者を魅了する。「ハイ・コロラトゥーラ」は高音のソプラノの中でも、さらに高い音域で、クラシック音楽の歌曲やオペラの速い旋律の中で彩りを与えるテクニックだ。正確に操れるのは限られた一部の人だけで、田中は「人生でそう聞けることのないすばらしい声」、「天使の声」などと称賛される。自身は「超絶技巧」と形容するこの技巧について、「鳥のさえずり」が理想型と話し、今でも自然観察と練習を欠かさない。

「今回のアルバムは、自分の強みを生かせる曲を選びました。『声がメインで伴奏はおまけ』ではなく、『声が楽器に溶け込むような表現』を目指しました」と解説。例えば1曲目のバッハ『ゴルトベルク変奏曲より アリア』では意図的に(高音を揺らす)ビブラートをかけないなど調整して、楽曲が作られた時代の音楽を機械的に再現した。「最高の楽器は声と言われますが、楽曲を声で表現したい。まるで絵画のようにさまざまな色彩が交わるような芸術を歌いたい」。天賦の才能を効果的に生かすことができる16曲を新アルバムに収めた。

この新譜を引っ提げて、全国5カ所でリサイタルツアーを行う。大阪は、過去3回歌い「好きなホール」という、いずみホールで10月22日に公演。「歌うことは全身運動。歌ってエネルギーを放出していますが、実は聴く人もエネルギーを出しています。コンサートでエネルギーを交換したいですね」。詳細は公式サイト(http://j-two.co.jp/ayakotanaka/)を参照。