映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督、公開中)の製作会社「スターサンズ」(河村光庸代表)が、出演者の不祥事を理由に文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が同作への助成金交付を取り消したのは違憲、違法であるとして、芸文振に不交付決定の取り消しを求め、近く東京地裁に提訴することが8日、分かった。

助成金の不交付に対し「スターサンズ」は「映画表現にとって重要な配役を理由とした不交付は、憲法21条が保障する表現の自由の侵害にあたる」と主張している。

同社によると、今年3月に助成金1000万円の交付が内定した。その後、出演者のピエール瀧(52)が麻薬取締法違反で逮捕され、4月に芸文振から出演場面の編集を打診されたが拒否したという。7月に瀧の有罪が確定すると「公益性の観点から適当ではない」と不交付を通知された。

9月に芸文振は「公益性」の観点から交付を取り消せるよう要綱を改定。同社は「不交付決定時には公益性の要件は要綱にない。裁量の逸脱」と主張している。そして、7月に不交付が決定しながらも問題が公になったのは10月になってからだった。

同社は今年、国家の闇を追う記者と若手エリート官僚のそれぞれの正義を描いた映画「新聞記者」や、菅義偉官房長官との記者会見でのバトルが話題になった東京新聞の望月衣塑子記者を追ったドキュメンタリー映画「i 新聞記者」も製作した。これらの作品が、不交付に影響したのではないかと推測してしまう映画関係者も多い。

昨年、カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」にも補助金が交付されたが、同監督が「公権力とは距離を保つ」と発言すると、政治家を含め、安倍政権支持者からの批判を受けた。国から助成金をもらうなら、時の政権を批判するなというような同調圧力で、助成金交付を受ける側からすると、不交付に対して声を上げにくい構図もある。

◆宮本から君へ 90年「モーニング」で開始した新井英樹氏の原作コミックを映画化。愚直な熱血営業マン宮本の七転八倒の生きざまが描かれる。池松壮亮主演で、昨年、テレビ東京系でドラマ化され、営業マンにスポットが当てられた。映画では蒼井優をヒロインに「究極の愛の試練」が描かれた。真利子哲也監督。ほかに井浦新、佐藤二郎、松山ケンイチらが出演。

◆映画創造活動支援事業「映画製作への支援」 映像芸術の普及、振興を図るため、優れた日本映画の製作活動に対しての助成。製作側は助成金交付要望書や資料を提出、芸文振が審査する。製作側は映画公開から1年後に、収益状況報告書を5年間にわたって提出する。助成額は、製作予算や映画の種類、単年か2年の助成かによって変わる。単年助成で劇映画の場合、上映時間1時間以上、予算1億円以上の作品へは助成金2000万円、予算5000万円以上の作品へは助成金1000万円。本年度の劇映画では、66件の応募に対して、24件に助成金が交付された。