放送中のテレビ朝日系ドラマ「書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~」(土曜午後11時30分)を手掛ける脚本家、福田靖氏(59)に話を聞く機会があった。

自分の実体験をもとにした物語で、生田斗真演じる売れない脚本家・吉丸圭佑が突然任されたゴールデン帯のドラマシナリオに奮闘する姿がコミカルに描かれている。ドラマ制作の裏側を見せる作品でもあり、取材では「こんなことってホントにあるの?」というやじうま心が尽きず、どの話も面白かった。

まず、吉丸にはドラマの放送開始3カ月前にもかかわらず企画すら白紙の状態で話が降ってくるが、これについては「ありますよ」と福田氏。駆け出しの当時を振り返って「このドラマのようにメインの人が書けなくなってしまって、『誰かいないか、誰かいないか』で売れっ子さんから順番に当たっていく。最後は、仕事がなくて暇している人間に当たるわけです。そこに僕ですから」。連ドラのメインライターという栄誉ではあるが、引き受け手不在のハードな仕事ということでもある。「その時はすさんでますよね、空気が」と苦笑した。

劇中では、いらだった様子で打ち合わせにやってきたプロデューサーが目もあわせずに片手でピッと名刺を渡すが、これも実体験という。「殺伐とした中で、『誰が来た今度は』って。会議が終わった後に、あの人誰ですか? みたいな感じでした」。執筆が進み、結果を残し始めると態度が軟化するようで「『君、名前なんて言ったっけ?』みたいな」と、手のひら返しを振り返って笑った。フジテレビ「HERO」「海猿」シリーズや、NHK大河「龍馬伝」、朝ドラ「まんぷく」を手掛けたヒットメーカーの苦労話に、急に親近感が湧いてしまった。

もう一つ印象的だったのが、「締め切りを守るための作法」だった。劇中の吉丸は「書けない~書けない~」と転げ回るが、福田氏は「以前はまさにそうでした。24時間態勢で、書けない、眠れない」。仕事を続けるうちに失敗しない手順を理解し「いきなり色を塗るからダメなんだと。まずは鉛筆でデッサンして、心を落ち着ける。ギリだけとデッサン。次に色を塗ってみる。いけるなら本当に色を塗ってみる。この段階をちゃんと追うようになってから、失敗や傷を最小限に抑えることができるようになりました」と語った。

「いきなり取り掛からない」とは基本的なことにも思えるが、時間に追われた時こそやりがちなことで、話を聞きながらわが身を省みて変な声が出てしまった。

ゼロから生み出す脚本執筆と事実を記す新聞記事では単純な比較はできないが、「分かります」と気持ちを伝えると、福田氏は「プロとアマの違いは締め切りがあることですから」とにこやかに語った。その軽やかさに、くぐってきた修羅場の数を想像した。【遠藤尚子】