世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(6日開幕)で最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品された、濱口竜介監督(42)の新作長編映画「ドライブ・マイ・カー」(8月20日公開)のカンヌ映画祭壮行会イベントが4日、東京・スペースFS汐留で行われた。

「ドライブ・マイ・カー」は、作家・村上春樹氏(72)の短編小説の映画化作品。同監督の作品が同部門に出品されるのは、商業映画デビュー作となった18年「寝ても覚めても」以来、3年ぶり2度目となる。

濱口監督は質疑応答で、村上氏が完成した映画を試写で見たか、見たとすれば何か感想があったか? と聞かれると「試写会のお知らせをして『私の地元の映画館で拝見します』ということを言って頂きました」と同氏からの返答を明かした。その上で「実際、どう感じられるかは気にしています。ぜひ、ご覧になったら、どこかで感想を伺う機会があれば(映画を)作った者としたら、こんなにありがたいことはない。個人的に見たいと言ってくださったことは、ありがたいことかも知れないと思っています」と語った。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上氏が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編で、同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾で、同名の14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められた。映画の上映尺は2時間59分に及ぶ。

濱口監督には、村上氏の小説の脚本開発も行っており、その脚本への感想はあったか? との質問も飛んだ。同監督は「(映画と小説の)かなりディテールは違う。村上さんの他の作品を一部、取り入れたりもしている。1番最初に映画にさせていただきたいというお手紙を書いた時に、映画と小説は違っていますが、許諾をいただけるのであれば、ぜひやらせていただきたい。(短編に他の作品も加えた)一方で、こういう形でないと映画では出来ないと思っていたので、お願いした」と村上氏に映画化の話を持ち掛けた当時を振り返った。同氏からは「具体的なお答えはなく、ただ『許可』とだけが、お返事としては返ってきた感じ」(濱口監督)という。

「ドライブ・マイ・カー」は、舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介が、満ち足りた日々を送る中、脚本家の妻・音が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、演劇祭で演出を任されることになり愛車で向かった広島で、寡黙な専属ドライバー渡利みさきと出会う。みさきと過ごす中、それまで目を背けていたあることに気づかされていく物語。家福を西島秀俊(50)、みさきを三浦透子(24)、家福音を霧島れいか(48)、高槻耕史を岡田将生(31)が演じる。西島の出演作品がカンヌ映画祭コンペティション部門に出品されるのは初めて。

濱口監督は、4人の女性の友情と心の機微を描いた5時間を越える長編となった16年「ハッピーアワー」で、ロカルノ、ナント、シンガポールをはじめ数々の国際映画祭で主要賞を受賞。。20年にベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督(65)の「スパイの妻」では、野原位氏とともに企画と脚本を担当し、東京芸術大大学院映像研究科の師匠である同監督に企画を持ち掛けた。今年2月のベルリン映画祭では、オムニバス映画「偶然と想像」で審査員大賞(銀熊賞)を受賞。カンヌ、ベルリン、ベネチアの世界3大映画祭を席巻しており、世界で活躍する是枝裕和監督、黒沢監督、河瀬直美監督に続く、日本映画の次代を担う才能として注目されている。