コロナ禍のため、昨年は現地開催を断念したカンヌ映画祭が、今年は2カ月遅れで開催にこぎ着けました。

ほおにキスをするフランス式のあいさつなどは禁止されたものの、従来はなかった野外上映も実施され、観客が肩を寄せ合いながら映画を楽しむ本来の観賞空間もよみがえりました。

「ドライブ・マイ・カー」でコンペ部門に参加した濱口竜介監督(42)は恒例のレッドカーペットを歩き、上映後にはスタンディングオベーションの感激を味わいました。「観客の集中力が高まっていく印象を受けたので、その果てに拍手が起きたのはすごくありがたいことだと思います」と喜びも明かしています。

今年の米アカデミー賞が、テレビ中継の視聴率半減など、もうひとつ盛り上がりに欠けたことに比べると明らかに「熱」を感じます。

アカデミー賞の開催は3カ月前で、感染対策のために会場を分散したこともありましたが、同様に「対面形式」を再開した映画催事への熱気は米仏間で大きな差があるように思います。

「パリの家族たち」(19年)で知られるフランスのマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督(59)は2年前のインタビューで「私の息子が携帯電話で年中Netflixを見ているのがちょっと気掛かりです。映画を携帯やタブレットだけで『消費』してしまうのは決していいこととは思いません。映画館で見るという体験は文化的に貴重なことだと思うからです。みんなで感動を共有することが映画本来の在り方ではないでしょうか」と、その思いを明かしてくれました。配信作品の比重が年々高まっている米アカデミー賞とは明らかに温度差があります。

そもそもの話になりますが、映写機の原型となるキネストコープを発明したのはエジソンですが、これを改良し、世界で初めてスクリーン投影を行ったのはフランスのリュミエール兄弟です。

制限付きながら世界の映画人が集い、観客と一体となったカンヌ再開の熱は、そんな「映画発祥の国」の思いから生まれたのかもしれません。