長渕剛(65)が10年ぶりの大規模コンサートツアーを開催する。タイトルは「REBORN 2022 with THE BAND」で、6月3日の神奈川・よこすか芸術劇場から3カ月半にわたり18都道府県で21カ所28公演を行う。東日本大震災の翌年の「RUN FOR TOMORROW 2012 UNPLUGGED」(19都道府県20カ所27公演)以来の大規模ツアーとなる。

常時ツアーを行っている長渕も、コロナ禍で活動を自粛。昨年12月に約2年ぶりとなるライブツアー「Acoustic Tour 2021 REBORN」(4都県5カ所6公演)を敢行した。タイトルの「REBORN」(リボーン)は再生の意味。長渕は「コロナ禍で個人個人がどうあるべきか見詰め直して再生していくのがテーマ」と話した。感染対策で、1人でギター1本でステージに立ち「人は何度でも生まれ変われる」と熱く訴えた。

今回は同じテーマで、長渕が人選したバンドを従えてのツアーとなる。「昨年のライブは指折りの大きな手応えがあった。みんな心のこぶしを上げた。(この時代だからこそ)リボーンであるべきと確信した。今年はリボーン元年として、全国に旋風を吹き荒そうという気持ちです」。

公演数は19年前のツアー「KEEP ON FIGHTING」(03年、31都道府県33カ所33公演)に次ぐ多さだ。硬質な肉体と鋼鉄の魂を持つ長渕だが「(公演数は)多いですよ」と苦笑いする。だが「やらねばという思いです。人生は目的やテーマがないと実につまらない。無理難題が来れば来るほど人生は楽しくなる。やっと来たか、オレの出番だという感じです」と意気込む。感染状況にもよるが、熱狂の長渕コールが復活しそうだ。

以下は一問一答

Q ツアーに関して

長渕 去年、立ち上げた「リボーン」を、今年は大々的に日本全国、フルスイングで、先頭立って行くぞという気持ちですかね。「リボーン元年」といいますか、やらねばという気持ちです。

Q 昨年のアコースティックライブではコロナ禍でしたが、ファンは長渕さんと一体となって「心のこぶし」を上げました。新しい長渕さんのスタイルになったと思います

長渕 去年のアコースティックライブで何を主体に考えたかというと、彼ら(観客)が何を求めているか、ということの一途ですね。今もそうなんですけど、考えれば自分の人生なんてのはそのためにあるわけですから。自分がやりたいことではなく、待ってくれている人たち、コンサート会場に足を運んでくれる連中が何を求めているかということなんですね。その心にきちっと届けてあげること。それが自分の役割と強く思ってましてね。そのことを含めて、去年はギター1本でやったんですね。それは明確に届いたであろうと思います。思いが届くと(不安などから)解き放たれて、ある1つの希望的なものに向かえるんですね。それを我々は会場で非常に感じた。歓喜の、心のこぶしは明らかに上がったなと。一緒に涙も流せた。スタッフもそうでした。この感動と我々の気概を持って、今度は全国の人間たちに届けようじゃないかと思った。ビジュアル的には新バンドを結成し、(ツアーは)心体ともに大きな負荷が掛かりますから調整して、全国を回っていこうじゃないかという思いですね。

Q バンドの人選は

長渕 基本的には一流ですね。思考、技術、人間性。そういったものがまず一流でなければいけないので、そこを基準に考えています。中途半端が一番ダメなので。自分たちはプロであり、何のためにピックアップされたかという意識を強く持っていただいて、リハーサルに臨んでほしいなと思います。

Q アコースティックライブでは、ファンが(感染対策の)ルールをきちっと守っていました

長渕 そうですね。(僕の)ファンの子たちは本当にきれいにルールを守る。桜島(オールナイトコンサート)の後なんて、掃除して帰ってくれましたからね。そういうのは昔から言われていて、本当にうれしいですね。一番守っていないのは本人じゃないかってね(笑い)。

Q 今回は久しぶりに「長渕コール」の熱気に触れられる可能性があります。期待はいかがですか

長渕 もちろんありますね。ただアコースティックライブで、コールしたくてもできないもどかしさを手拍子に変えてくれた。非常に愛いっぱいのライブで、愛いっぱいの現場であったと、僕自身を含めてすべての人が感じてくれたんじゃないでしょうか。今まで鳴りやまないコールはあったけど、鳴りやまない拍手ってなかったよなって。その拍手は我々が来てくれたみんなに対して、大好きだよという思いを届けたことに他ならないなって。スタッフたちも涙を流しました。同じスタッフでもう1回スタートしますので、コールが来ようが来まいが、その意気でやります。

Q アコースティックライブは非常に手応えがあったのですね

長渕 強くありました。過去において、やっぱり指で数えるぐらいの、人生の中で大きな、手応えと言ったらおかしいけど、確信的なものをね。歌とはこうであり、愛する気持ちはこうであり、求める気持ちはこうでありとか、そういう確信を得ることができたという思いはあります。後はやっぱり積み上げてきたこと、ファンと一緒に時代を、それが一端に過ぎなかったとしても、時代を一緒に生きて行ってるな、築いて行ってるなという思いは強く感じましたね。そういう意味では、感謝の念もものすごくあります。自分が命懸けで彼らに返していくという作業は、永遠に続くのだろうと思います。命のかけがえのある人間たちの集団、集まりであって、そういう場所であるということを再認識しています。

Q アコースティックライブの時はじっくりと聴かせました。今回、バンドということで、盛り上がりの予感がありますが、選曲に関してはいかがですか

長渕 楽曲のチョイスはまだできていないですけど、僕は「捨てろ」と言ってるんです。みんなに。自分の欲求を捨てろって。彼らが何を求めているかを考えろと。そこを追求しようと。盛り上げるとか盛り上げないということがテーマではなく、どうやったら我々が彼らの心に突き刺すことができるか。彼らの心を解いて、中にグッと入ることができるかということを考えたいんですね。それには、よりコアで専門的な技術が必要になると思います。例えばブルースであれば、息もつけないぐらいにブルースの妙技を見せつけるとか。コーラスと歌の、いわゆる掛け合いであれば、息もつけない、声も出ないくらいのものをきちっと作り上げるとか。より専門的な、音楽人としてのプロフェッショナルな技とか、緩急とか、そういうものが要求されます。なので厳しいです。今回は。自分自身もそうだけど、(バンドの)彼らに課することもね。

Q 久々の大規模ツアーです。体力、感性を新たに磨き上げていかなければならないと思うのですが

長渕 そうですね。だから心体共に必死ですよ(笑い)。これまではある種やみくもにですね、壊れてみて初めてこうだったとかね(笑い)。もうそういうわけにはいかない。積み上げて来たマニュアルがありますので、食とトレーニングの兼ね合いや睡眠とか。きちっと数値的に出ていますから、それを基本にしてしっかりと自己管理を徹底してやっていくということでしょうね。厳しいですけど、人生は1つのテーマがあった方が面白いです。目的やテーマがないと、実につまらないですね。無理難題が来れば来るほど、人生というのは楽しくなるような気がします。

Q 去年のアコースティックライブに続き、大規模な全国ツアーと、コロナ禍が続く中でもとても精力的と思います

長渕 走る時は走らなければいけないので。さあ、いよいよ出番かなという感じはあります。

Q ギター1本でステージに上がるのと、バンドでパフォーマンスするのには変化はありますか

長渕 表現していく相違はあると思います。1人の時には1人対2000とか3000、4000の構図があります。そうすると、見ている人たちは1人というものに対して、自分の人生や思いをフィードバックしていきますよね。1人の思いから発せられる歌は、自分と同じでありたいとか、そうなんだとか。つまり君と僕の関係なんですね。ところが集合体になって来ると仲間なので、仲間の妙技というのがあると思うんですね。リズムやバックコーラスとかみんなで助け合うんです。思いやりや助け合いといった構図が音として表現されますから、バンドでやる時にはそういう醍醐味(だいごみ)はありますね。個である大事さと、個が生きて行くための仲間の大事さです。個と仲間では、パフォーマンスへの称賛の拍手の意味合いがちょっと違う。(集合体は)ミュージカルを見たり、いろんなショーを見たりしたときに浴びせられる拍手の質と似ているのかもしれませんね。どちらも僕の伝えるための手段ですから、前回はギター1本で十分だった。今回はギター1本のコーナーもあると思いますが、バンドが必要なんです。そういったテーマ性を忍ばせてあります。

Q ギター1本のライブに全国ツアー。富士山麓のような巨大なコンサート。いくつもの顔があります

長渕 総合的にはうねって寄せては返すみたいなね、そういうものの流れになるんですけど、自分としては常に新しいんです。どのテーマも自分にとって大きい。過去にやったことは参考になることはありますが、違うテーマが押し寄せて来るので、それを打ち壊していくみたいなところの連続ですね。作っちゃ壊して、作っちゃ壊して。もったいないなと思うんですけど、儚(はかな)いところにも意味があると思います。テーマ性というのは。一生懸命考えて考えて、壊しちゃ作って、壊しちゃ作ってやっていく。そういうのが多分、エンターテインメントだと思います。

【取材・構成 笹森文彦】

 

◆長渕剛(ながぶち・つよし)1956年(昭31)9月7日、鹿児島県生まれ。78年「巡恋歌」で本格デビュー。「順子」「乾杯」「とんぼ」などヒット曲多数。アルバムは「LICENSE」「昭和」「JEEP」など5作連続を含む12作品がチャート1位。04年に鹿児島・桜島で、15年には富士山麓でオールナイトライブを開催。俳優、画家、書道家としても活躍。