世界3大映画祭の1つ、第75回カンヌ映画祭授賞式が28日(日本時間29日)、フランスで行われた。是枝裕和監督(59)初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」(6月24日公開)主演のソン・ガンホ(55)が韓国人俳優初の男優賞を受賞した。18年「万引き家族」に続く最高賞パルムドールの受賞はならなかったが、04年「誰も知らない」で日本人初の男優賞に輝いた柳楽優弥(32)以来の受賞に、同監督は「自分の映画に出た役者が褒められるのが一番うれしい」と喜んだ。

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受賞が発表された瞬間、ソン・ガンホは是枝監督と熱い抱擁を交わした。背中を優しくたたかれて登壇すると「光栄です。偉大なる芸術家、是枝裕和監督に深く感謝申し上げます」と目を潤ませながら口にした。

カンヌ映画祭は韓国の俳優で歴代最多の7回目の参加。今年「DECISION TO LEAVE」(英題)で初の監督賞を受賞したパク・チャヌク監督が09年に審査員賞を受賞した「渇き」、19年にパルムドールを受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に主演し、昨年はコンペティション部門の審査員まで務めたが、男優賞の受賞はなかった。

「パラサイト-」は翌20年の米アカデミー賞で非英語作品初の作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を獲得も、個人賞にはノミネートされなかった。米ニューヨーク・タイムズ紙が20年に発表した「21世紀最高の俳優25人」に名を連ねたアジアを代表する世界的俳優だが、主要な国際映画祭の個人賞は無縁だった。

「ベイビー・ブローカー」は、是枝監督があえて脚本の後半3分の1は決定稿を出さず撮影を始め、撮影中に残りを書き、俳優陣と話し合いブラッシュアップした。その過程の中、ソン・ガンホは「ここは、すごく良くなったけども、ここは前の方が僕は好きだ」など率直な意見を提案。映像の編集も自ら見たという。

是枝監督は「(ソン・ガンホから)意見が戻ってくるフィードバックが撮影の裏で毎日あり、僕にとって判断の1つの基準になった」と振り返った。そして「僕が何か引き出したというよりは、信頼関係の中で進められたことが彼の芝居の質も上げた」と分析した。

悲願を成し遂げたソン・ガンホは「2階にいると思いますが愛する家族とともに来ました。本当に大きなプレゼント。とてもうれしいですし、このトロフィーの光栄と永遠なる愛を差し上げます」と感激した。

◆ソン・ガンホ(宋康昊)1967年1月17日、慶尚南道金海市生まれ。画家の父を持ち、中学2年で俳優を志し釜山慶尚専門大放送芸能科に入学も軍入隊で中退。除隊後の91年舞台俳優としてデビュー。96年「豚が井戸に落ちた日」で映画デビュー。97年「ナンバー3」で大鐘賞新人賞。99年「シュリ」、00年「JSA」で韓国内での地位を不動のものとし、同年の同主演男優賞受賞。近年の代表作は「スノーピアサー」(13年)「タクシー運転手 約束は海を越えて」(17年)。家族は妻ファン・ジャンスクさんと元Kリーグ水原DFで20年に引退した長男ジュンピョンさんと娘。

◆「ベイビー・ブローカー」 クリーニング店を営むも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)とベビーボックスがある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)の裏稼業はベイビー・ブローカー。2人はボックスに預けられた赤ん坊を連れ去るが翌日、思い直した母ソヨン(イ・ジウン)が警察に通報しようとすると「大切に育ててくれる家族を見つけようとした」と白状。成り行きで養父母探しの旅に出る3人を、刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ(イ・ジュヨン)は現行犯逮捕しようと追う。