李相日監督(48)が「流浪の月」で監督賞を初受賞した。16年の前作「怒り」を作り「できる目いっぱいは形になった。別なところに目を向けないと焼き直しになる」と危機感を覚え、米アカデミー賞4冠獲得の韓国映画「パラサイト 半地下の家族」の撮影監督ホン・ギョンピョ氏(60)を招聘(しょうへい)した。

そして「怒り」の撮影中「この映画、壊す気?」と突きつけた広瀬すず(24)を主演に起用。「大人として対峙(たいじ)する」と伝え、向き合った。同じく主演の松坂桃李(34)が役作りに悩む中、自ら演じて寄り添い「救われた」と感謝された。ラストシーンで裸の松坂に寄り添う広瀬の姿に母性を見て「作品、役として広瀬すずの区切りにたどり着けた」と感じた。

受賞の先、どこへ向かうのか。「変えずに、どう変わっていくか」。変わらずに進化の道を歩んでいく。【村上幸将】

◆選考経過・監督賞 「映像の美しさ、描写、表情、役者が生き生きしているのは監督の力量」(福島瑞穂氏)「撮影と合わせ技で良い監督」(駒井尚文氏)と李監督を称賛。「世界でも勝負できる」(石飛徳樹氏)と評された早川千絵監督との決選投票で選ばれた。

◆李相日(り・さんいる)1974年(昭49)1月6日、新潟県生まれ。神奈川大経済学部卒業後、日本映画学校(現・日本映画大)に入学。卒業制作「青~chong~」がPFFで4冠を受賞しデビュー。06年「フラガール」で日本アカデミー賞最優秀作品賞。

◆流浪の月 家に帰れない10歳の家内更紗(白鳥玉季)と家に招き入れた大学生・佐伯文(松坂)は、ともに居場所を見つけ幸せだったが夏の終わり、文は「誘拐犯」、更紗(広瀬)は「被害女児」となった。15年後、大人になった更紗は文と偶然、再会する。

昨年「空白」「BLUE/ブルー」で監督賞を受賞した吉田恵輔監督(47) 監督賞、受賞おめでとうございます。李監督がデビューする前「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)」のグランプリ(00年「青~chong~」)を受賞された時、私は客席から見ていました。ずっと憧れの存在です。「流浪の月」の完成度、センスには脱帽しました。刺激を、ありがとうございます。