東京映画記者会(日刊スポーツなど在京スポーツ紙7紙の映画担当記者で構成)主催の第65回(22年度)ブルーリボン賞が23日までに決定し、お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹(54)が「沈黙のパレード」(西谷弘監督)で助演男優賞を受賞した。

飯尾は「ブルーリボン賞は一生、縁がないと思った。何百本も見ている記者の方が、票を入れてくださった…ミシュランみたいなものですよね。本当にうれしかった」と歓喜に浸った。

お笑いを含め「こういう大々的な賞は初めてです」と、主要賞の獲得は初めてだと明かした。「14年に、バッファロー吾郎さん主催の大喜利ライブ『ダイナマイト関西』で優勝して以来です。小学校時の写生会も入選止まりだったし」と言い、記者たちを笑わせた。

お笑い界からの助演男優賞受賞は、85年にビートたけしが「夜叉」、88年に片岡鶴太郎が「異人たちとの夏」、93年に所ジョージが「まあだだよ」で、それぞれ受賞している。また事務所の大先輩の萩本欽一(81)が93年に「欽ちゃんのシネマジャック」で特別賞を受賞した。その事実を聞くと「大御所っすね…。そうそうたる方たちの中に、どさくさ紛れに、すみません」と恐縮した。

劇中では、川床明日香(20)演じる事件の犠牲者・並木佐織の父で、菊野商店街の定食屋「なみきや」の店主・並木祐太朗を演じた。娘を失った無念さがあふれ出す沈痛な表情が、観客の涙を誘った。娘を失う父親の役作りのために、娘を持つ所属事務所の先輩・関根勤(69)や、仕事で一緒になる野性爆弾のくっきー!(46)に心情を聞こうとしたが「悲しい気持ちにさせるだけ」と思い、聞けなかった。そうした中、川床と、もう1人の娘役の出口夏希(21)がなついてくれたことや、細部までこだわって作られた居酒屋のセットの力を借り「この人を泣かしちゃいけない」という父親の気持ちになれた。

加えて、北村一輝(53)演じる警視庁捜査一課の刑事・草薙俊平にいら立ちをぶつける、父親としての怒りの芝居への評価も高かった。「草薙さんの、つらさは分かるんだけど、何ともならないから怒りをぶつける。北村さんは、吐き出してくれる感じを作ってくれた」と北村に感謝した。

一方で、失敗もあった。佐織の歌の才能を買うスカウトが並木屋を訪れたシーンで、芸能界に反対して険しい顔をしつつも感情のやり場がなく、お茶に逃げた祐太朗を演じた中「熱ちっ」とアドリブを仕掛けた。その場はウケたが、西谷弘監督(61)から「一切、いらないですから。ずんは玄関に置いてきてください」と真顔でダメ出しされた。音楽プロデューサー役を演じた椎名桔平(58)から「ナイス、トライ!」と言われ、救われたというが「もちろん、ウケようと思ったんです。ずん飯尾和樹のエゴが出ましたね。監督の言うとおりだと思った」と反省した。

映画が公開されると、鑑賞した事務所の先輩の小堺一機(67)から「おもしろかったよ」と感想が届いた。そして、関根ともども「良かったよ。何か、賞、取れるんじゃないか?」と太鼓判を押された。「一瞬、その気になったんですけど…。まさか、こうやって…」と“予言的中”を喜んだ。

「沈黙のパレード」公開後に、俳優としてのオファーもあったという。「正直、オファーはいただきました。シリアスな感じの、お話もいただきましたが、普段のお仕事のスケジュールが合わなかった」。今後、やりたい役について聞かれると「検察の役とか、いいですね。言いたいセリフがありまして『はい、そこ入らないで、触らない!』と段ボールに包んでいく役。(フジテレビ系)「ノンストップ!」(月~金曜午前9時50分)で料理コーナーをやらせていただき、好きなんですけど、料理人の役とか、やってみたいですね。手に職があるのも、好きかも知れない」と語った。

それでも、一通り語った後で、飯尾は「でも、お笑いの軸は忘れずにいきたい」と力強く口にした。【村上幸将】

◆ブルーリボン賞 1950年(昭25)創設。「青空のもとで取材した記者が選出する賞」が名前の由来。当初は一般紙が主催も61年に脱退し67~74年の中断を経て、東京映画記者会主催で75年に再開。ペンが記者の象徴であることから副賞は万年筆。新型コロナウイルス感染拡大防止のため授賞式は3年連続で開催を見送ってきたが主演男、女優賞受賞者が翌年の授賞式で司会を務めるのが恒例。