東京ドキュメンタリー映画祭事務局は2日、プログラムディレクターを務める批評家・映像作家の金子遊氏(49)に降板を勧告し、同氏も了承の上、事務局を辞任したと発表した。

金子氏をめぐっては、7月23日に死去したことが同28日に明らかになった女優で映画監督としても活動した水井真希さんが、仕事関係者から性被害や暴力を受けていたとツイッターで告発した際、加害者を「K」としていた。その件について、金子氏は同31日、ブログで「『K』の性犯罪やストーカー行為について書いた投稿が掲載されています。彼女は名指しを避けましたが、この『K』は当方を指しているのではないかと思います。ですが、当方は氏の主張するような違法行為は一切しておりません」と、性犯罪やストーカー行為は行っていないと主張。一方で「不徳のいたすところにより、生前の水井氏から恨みを買う行動(不貞行為、彼女がリストカットをした過去について取材してしまい、彼女の心を傷つけたこと)があったことは事実です。それは道義的に過ちだったと考え猛省しています。11年前は、人としての正しさや思いやりが欠けていました。今後は同様のことを起こさぬよう全身全霊で自己を改善します」としていた。

金子氏の主張を受けて、東京ドキュメンタリー映画祭事務局は公式サイトに文書を発表。「ここ数日、加害者とされる人物が、本映画祭のプログラムディレクターのひとり、金子遊であるとする言説がSNS等で伝えられる事態となりました。事態を重くみた映画祭スタッフは、直後より金子への聞き取りを含めた事実関係の確認と、今後の対応に関する協議の場を持ちました」と、金子氏への聞き取りなどを行ったと説明した。そして「当人の説明によると、告発内容は事実ではないが『K』は自分を指しているのではないかと考えており、違法行為は無いものの『過去の不貞行為やそれにより彼女の心を傷つけたことは事実』として反省と謝罪の意を表明しました。(中略)その後当人を除くスタッフ全員で話し合いを重ねましたが、当人の行為の結果、被害を受けたと主張する方が亡くなった事実の意味は重く、例え過去のことであっても道義的責任を取る必要があるとの結論に至りました」と、映画祭として責任を取る方向になったとした。その上で「その結果、映画祭実行委員の総意として、金子に対しプログラムディレクターの降板が勧告され、本人もこれを了承しました。金子は事務局を辞任し、今後、映画祭に関わる一切の業務を辞退いたします」とした。

事務局は「亡くなられた方のご冥福を心からお祈り申し上げます」と、水井さんへの弔意を示した。その上で「社会的に繊細な題材を扱い、人間の尊厳への慎重な配慮が求められる本祭にとって、性加害は決して容認できるものではありません。要職にある人間のひとりが、性加害という重大な問題を問われたことを、心よりお詫び申し上げます。結果として、これまで性加害問題への認識が甘いまま運営を続けてきてしまったことは、ドキュメンタリー映画祭への信頼を大きく損なうものであり、社会的責任を痛感し、深く反省しております」と謝罪した。そして「まずは率直にお詫びを申し上げ、映画祭として今後、性加害の問題にどう対応すべきかの具体的な取り組みを、検討していく所存です」とした。