俳優の北大路欣也(80)が今年の文化功労者に選ばれた。
最近ではCMの「犬のお父さん」の声がまず頭に浮かぶが、オールドファンにとっては、NHK大河ドラマ「竜馬がゆく」(68年)の主演など、どちらかといえば時代劇の印象の方が強いだろう。父親が時代劇スター、市川右太衛門(99年、92歳没)であることも影響していると思う。
「旗本退屈男」で知られる父右太衛門は、東映時代劇の全盛期を支えた大スターだ。東映の役員でもあった父の庇護(ひご)もあり、「東映城のプリンス」として売り出された北大路は15歳で映画初主演。順調なスタートを切っている。後年、紫綬褒章、旭日小綬章を「親子2代」で受章。今回の文化功労者で初めて父親の大きな背中を越えたことになる。
文化功労者選出後の会見では「先人たちの活躍は少年時代から見てきました。それはすごいエネルギーだし、輝きだった。先人の功労とは比べられません」と、あえて父の名は挙げず、10代で飛び込んだ当時全盛期の映画界を振り返った。
32年前、その父右太衛門にインタビューする機会があった。戦後復興期に映画ファンの胸を躍らせたのは見えを切る大きな演技と派手な衣装だった。
「できるだけ派手にしてみなさんに夢を持ってもらいたかった。もっともっとという思いで、それは作品ごとに膨らんでいきましたね」
取材した時は84歳の高齢だったが、そのおおらかな話し方に「銀幕スター」のオーラとはこういうものかと実感した。文字通りスクリーン狭しと暴れ回った右太衛門の衣装代は製作費の10分の1に及び、現代の物価に換算すると5000万円くらいに達していた。
そんな大きすぎる父の存在が、北大路の「障害」になったこともある。時代劇が減り、現代劇が増えた60年代のことだ。
東映京都撮影所長だった岡田茂(後の東映会長=11年87歳没)が「エロと暴力を前面に打ち出した現代劇に(偉大な右太衛門ジュニアの)北大路を出すわけにいかない」と、時代劇スターとしてのイメージを大切する姿勢を取ったのだ。
出演機会がどんどん減った北大路は「どんな役でも出させて欲しい」と直訴。それが70年代の「仁義なき戦い」シリーズなど、いわゆる実録ものでの活躍につながっていく。
北大路が先日の会見で「時代劇、現代劇など、ジャンルで考えたことはありません。ただただ役との出会いを大切にしてきました。犬のお父さんだって、それまで演じた父親役を見ていただけたからだと思っています」と話した裏側には、そんな当時の思いがあったのかもしれない。
映画全盛期に真っすぐスター街道を進んだ父とは違い、時代の曲折にもまれた北大路は、結果的に役柄のウイングを広げることになった。
東映の看板として最後まで「主演俳優」だった父とは違い、07年のドラマ「華麗なる一族」(木村拓哉主演)の父親役など、作品を締める脇役として随所で輝きを見せてきた。そんな貴重な存在感が、父を越える文化功労者選出につながったのだと思う。【相原斎】



