トニー賞などをはじめ数々の演劇賞を受賞したブロードウェーミュージカル「カム フロム アウェイ」(7日~29日、東京・日生劇場ほか)このほど観劇した。日本初演に相応しい日本ミュージカル界の“アベンジャーズ”12人による濃密な100分間だった。

2001年9月11日の同時多発テロ事件の影響で、アメリカ国内に着陸出来なくなった38機の飛行機が、カナダのニューファンドランド島にある小さな街、ガンダーに緊急着陸した際に、街の住民と乗客に起きた5日間の物語。人種、国、宗教、言語が異なる者同士が困難な状況で助け合いを通じて真の絆を生んでいく。

同ミュージカルは同時多発テロで失ったものだけではなく、得たものに焦点を当てている。テロが起こった日、大変だったのはニューヨークだけではないこと、ガンダーの人々の寛容さ、人々が協力し合う精神を描いている。音楽も良い意味で軽い。ポップス調だからこそ事件のシビアさとバランスを取っているようにも感じる。

オープニングナンバーに「わからないだろう この島の話の半分も」という歌詞がある。日本で公演しなければ知り得なかった事実が非常に多い。「飛行機は常に動き回らないと故障する」という飛行機の「へぇ~」な知識も知り得た。

舞台上では、シルビア・グラブ、橋本さとし、森公美子、吉原光夫ら12人の出演者が100人近くの役を次々に演じ、ドラマが交錯する。セットも衣装もシンプルだが、椅子を動かすだけで舞台は機内から学校にはや変わりする。

出演者は地元の人から即座に、遠くから来た人“カムフロムアウェイ”に変身。演じ分けは声色を変える、眼鏡をかけるなどのわずかな変化だが、見た瞬間に「今はどの役か?」が絶対に分かり、演技の本質を目の当たりにした。

さらに、小道具を用意、椅子の位置の転換など演者の行動自体が人間関係や温かさなど、作品のテーマを体現していることで意味のない動きが1つもなかった。演者同士の協力なくして、この作品が成立しない事にも通じていた。

舞台を観ながら「3・11」が起きた当時を重ね合わせてしまった。テレビで見た被害、自分がそこにいないことを安堵(あんど)するのは不謹慎なよう複雑な心境、何に対してなら「良かった」と言っていいのかわからなくなる悲惨さと、被災地での温かいニュースなどを思い出した。

「同時多発テロ」は歴史上では23年前の出来事だが、アメリカでは今もテロの後遺症に苦しむ人が大勢いる。終わらない現実だからこそ、アメリカで多くの人々に受け入れられる作品だと感じた。

日本版では、ブロードウェー版の持つメッセージ性と異なる部分もあるだろう。しかし、日本の場合は震災や被災地での対応という点でもメッセージが響く作品だと感じる。

通常のミュージカルのように場面ごとにソロ曲があるわけではなく、「主人公が不在の群像劇」だが、日本のミュージカル界を背負う12人の歌声とパワーは達人芸。演じ分けをしながら、全てのタイミングがハマる舞台転換も見事。ここ数年見てきた中で最も好舞台だった。【加藤理沙】