女優蒔田彩珠(23)が、28日公開の映画「消滅世界」(川村誠監督)で主演を務める。
芥川賞作家の村田沙耶香氏が15年に刊行した小説が原作で、性愛がタブーとされ人工授精での妊娠、出産が常識となった世界を描き、周囲の普通と自分の欲情と向き合う少女を演じた。今年は数多くの人気ドラマに出演、話題を集めた。作品の見どころや撮影の裏側、自身の武器である「憑依(ひょうい)力」を語った。【野見山拓樹】
■性愛タブー実現化も!?
難解な世界観とキャラクターを見事に演じきった。同作は結婚生活に性愛を持ち込むことを禁じられ、人工授精での妊娠が当たり前になった世界を描く。蒔田は愛し合った夫婦から生まれながら、周囲や世間の“普通”に影響され、家庭に愛を持ち込んだ母親を嫌う少女、雨音を演じた。現実離れした世界観に難しさを感じたというが、「今の世の中と違うフィクションのような感じがするけど、でも作品の中に今の世の中の流れを感じた。そう遠くない未来の話でもあるので、いつかこうなるんじゃないか…と思いました」と、少子高齢化や若者の恋愛離れや結婚離れが進む現代社会と重ねた。
■愛なき世界「行かない」
大人になり、夫の朔(栁俊太郎)と性愛を持ち込まない穏やかな生活を送っていた雨音は、やがて計画的に人工授精や妊娠、出産を管理する実験都市「エデン」に移住する。「エデン」に入ったことをきっかけに、自分の本能を探し求めるようになる。愛のない世界に行きたいかと問われると「行くか行かないかと言われたら、私なら行かないですね」と明かし、「行ったら行ったで周囲に溶け込もうと必死になると思いますけど、やっぱり愛がない世界は寂しいですよね」と、愛を失った世界の冷たさを語った。続けて「撮影している中でも愛がない世界への違和感は感じていましたけど、この違和感はきっと雨音が持っている違和感に近いと思いながら演じていました」と、現実世界の人々の感覚とのギャップを感じつつ、雨音の感覚に寄り添った。
作品の難しさを強調したが「映像にしたときに、現実と違う世界観を表現できるのかな? どんな風に映るのかな? というのはすごく楽しみでした。完全に理解したうえで臨むというのはなかなか難しいと思ったので、皆さんとのやりとりの中で役を理解していけた」と、楽しさを感じながら撮影に臨んだ。共演者や川村監督とともに雨音という役を作ったと明かし、「想像することしかできないので、台本を読み込みすぎるとイメージが凝り固まって、ほかの役者さんや監督との認識の差が生まれてしまうと思ったので、役を作り込みすぎずにやって、実際に演じたうえでの空気感を大事にしながら演じました」と、無機質な作品のベースを固めた。
■最後の場面、後味何とも
最終盤まで不安感をあおることで、観客に強く訴えかける作品となった。「最後のシーンに、なんとも言えない後味があると思います。この中の世界がどうなってしまうのか、映画の中だけでなく現実での不安もあおるような終わり方をしているので、見終わってからその不思議な感覚にあおられる感覚を味わってもらいたいと思います」。
■多数作鑑賞、感性に磨き
蒔田の演技は、川村監督から「目が離せなくなるような引力がある」「瞬時に役に溶け込む憑依力を感じた」と絶賛された。その「憑依力」は感情移入のしやすさにあるといい、「演じていると自然と感情移入してしまいますね。アニメとか小説とかを読んでいても感情移入しちゃう方ですし、すぐに泣きますね(笑い)。登場人物になりきって悲しくなったりするので、共感する力が憑依できる理由かもしれませんね」と語った。豊かな感性を武器に感じたままに役に入り込むことが、自然さを生み出している。
さまざまな作品を見ることで、豊かな感性に磨きをかけた。「元々あんまり映画とかドラマを見る方ではなかった」と映像作品にはあまり興味を示さない時期もあったが、「18歳の時に知り合ったカメラマンの方から『10代のうちに見といた方がいいよ』と、オススメの映画リストをいただいて、それを見ていたら映像を見るのにハマっちゃった」と、さまざまな映像作品に触れながら、演技につながる共感力を身につけた。
■強い責任感、息合わせる
「消滅世界」のほかにも、今年はTBS日曜劇場「御上先生」に出演し話題を呼んだほか、日本テレビ系日曜ドラマ「DOCTOR PRICE」でもヒロイン役で出演。メインキャストとして作品に出演する機会が一気に増えた。注目の若手女優の1人だが、「映画だと撮影から時間がたって公開するので、今自分来てるじゃん! みたいな感覚はないですね。全然気は抜けないので、コツコツ地道に頑張っています」と照れ笑いを浮かべつつ謙虚に話した。自分のセリフや出番が増えたことで責任感も強くなったといい、「今までは大人のキャストの方々がなんとかしてくれると思って、身を委ねることもあったけど、ここ1、2年ぐらいから、そろそろ自分で責任を持って現場に立たないといけないと思うようになってきています」と明かした。続けて「自分が演じる役がメインになればなるほど、自分の役をしっかり理解しないといけないので、ちゃんと話し合いに参加して、おそるおそるですけど『こうしたいです』みたいな相談はするようになりました。でも、とにかく周りのキャストさんと息を合わせることを大事にしています」と現場での心構えを語った。
■一流女優へ「努力」誓う
今後の出演作品も決まっているといい、さらなる飛躍が期待される。女優としてのステップアップには貪欲で、「ちゃんとお芝居を楽しむために努力したいと思っています。今年はドラマが多くてセリフの量も多かったので、早く覚えておかないと緊張しちゃって本番がうまくいかない、みたいなことがないように、早めにセリフを覚えて役のことをしっかり考えられるようにすることを意識していました」と語った。さらに「今はいろんな役に挑戦している段階なので、いろんな作品を見て『こんな役もできるんだ』とか『これも蒔田彩珠だったんだ』とか、そう思ってもらえるお芝居をしていきたいと思います」と、憑依力を武器に、日本を代表する一流女優へ成長する。
◆蒔田彩珠(まきた・あじゅ) 2002年(平14)8月7日生まれ。神奈川県出身。7歳で子役としてデビュー。12年にカンテレ「ゴーイング マイ ホーム」に出演したことをきっかけに女優の道へ進んだ。16年にNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、21年には「おかえりモネ」に出演。同年に映画「朝が来る」に出演し、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。好きなアニメは「クレヨンしんちゃん」。身長158センチ。
◆消滅世界 結婚生活に性愛を持ち込むことがタブーとされ、人工授精での妊娠や出産が常識となった時代を描く、SF風作品。愛し合った夫婦から生まれた少女の雨音が、夫の朔と、計画的に人工授精を行う都市「エデン」に移住し、世の中の価値観に翻弄(ほんろう)されながら自分の本能のありかを探し求める。



