田中麗奈(45)らが所属する大手芸能事務所テンカラットと、ソニーミュージックグループの声優事務所ミュージックレインが共同で、俳優と声優の両軸で活躍できる次世代のハイブリッドな表現者の発掘、育成、開花を目指すプロジェクト「OPALIS」(オパリス)を16日に発足した。
都内で開かれた会見を取材して、特色だと感じたのが全国7カ所で俳優&声優体験、ボイストレーニングができるワークショップを行った上で、オーディションで発掘する、という仕組みだ。
まず俳優、声優という職業が、どういうものであるかを示し、体験してもらう機会を作り、そこから選抜する、という丁寧なやり方に可能性を感じた。その後もレッスン、審査会、定期公演の開催などで育成し、開花までサポートする。
その流れを「一気通貫」と評したが、そこにも才能の原石を、責任を持って本物に育てる姿勢が見える。目を付けた素材をスカウトしてからレッスンするという、従来のやり方より手間暇はかかるだろうが、発掘、育成から本物へと育てる可能性はより高まり、むしろ効率的かもしれない、とさえ思えた。
俳優と声優、両方で活躍できる才能を育成する、というのも理にかなっている。会見に参加した俳優の中島歩(37)は、俳優として立つ現場の現状について「声優さん、お笑い芸人、スポーツ選手もいる総合格闘技のようなもの」と説明。その上で「こういう機会は自分の時もあれば良かった」と、OPALISの意義を強調。10年11月に声優ユニット初の日本武道館単独ライブを成功させた、スフィアのメンバーで声優の戸松遥も「所属するかも分からない段階で、先にレッスンが受けられるのは結果がどうあれ良い経験」と「一気通貫」の発掘、育成の効果に期待した。
ただ、俳優が身を置く芸能界と声優の世界は「文化が違う」と言っても過言ではないほどの違いがある。例えば芸能界では、映画やドラマの出演俳優を選ぶにあたりオーディションが行われるが、監督やプロデューサーが、厚い信頼を寄せていたり作品に適任だと考える俳優に直接、声をかけ主役や主要な役どころにキャスティングするケースは、ままある。
一方、アニメはどんなに大御所と言われる声優であっても、基本的にはオーディションを受け、そこでの芝居がダメであれば、名前、キャリアに関係なく落とされる。監督や、セリフの演出、BGM、効果音など作品の音響の全般を統括する音響監督から信頼を受け、肝いりで起用されるケースもあるが、芸能界におけるキャステイングより、その割合は少ないだろう。
記者は、12年のアニメ映画「ベルセルク 黄金時代篇1 覇王の卵」(窪岡俊之監督)の企画として、ケンドーコバヤシ(53)と共演したことがある。ケンコバが悪役「30人斬りのバズーソ」を演じた一方、記者が演じたのは名前もない兵隊役で、セリフは1つだった。後日、別な作品で主演を務めた人気、実力を兼ね備えた某声優のインタビューをした際、あくまでネタの1つとして、1つのセリフしかなかった「ベルセルク」のアフレコで大苦戦した話をしたところ「私は『ベルセルク』が好きで、絶対に出たかったのにオーディションに落ちました。何で記者さんが出ているんですか! セリフ1つでもいいから出たかった!!」と猛烈な勢いで怒られ、取材現場の雰囲気が悪化したことがある。それくらい、アニメ作品のオーディションは、声優にとって重いものなのである。
そんなアニメ、声優の世界に、芸能界が急接近した時期があった。水樹奈々(46)が声優アーティストとして初出場を果たした、09年大みそかのNHK紅白歌合戦の頃である。同年に、西尾維新氏の小説をアニメ化した「化物語」もヒットし、アニメ業界が湧いていた中での、水樹の紅白初出場のインパクトは大きく「第4次声優ブーム」などと呼ばれる声優のムーブメントが起きた。
作品のキャラクターとして、声優が劇中歌を歌うキャラソンのみならず、顔出しで表に出てアーティストとして活動する声優アーティストが急増。人気があったり実力派と言われた声優のみならず、新人や若手声優でも、俳優として表に出てもおかしくないようなルックスの声優が数名で組んだ、声優アイドルユニットも多数、登場した。
そこに目を付けた大手、中堅を問わず各芸能事務所が、アニメ業界に参入しようと動きを強めた。自社で声優オーディションを開催した社があれば、活躍している声優に声をかけ、加入させる事務所もあった。当時、アニメを取材する記者の元にも、複数の芸能関係者、芸能事務所社長からアニメ、声優業界についてレクチャーして欲しいと依頼が相次いだ。
ただ、業界のしきたり、業態から何まで“文化が違う”ため、壁にぶつかっているケースが散見された。そもそも、アニメ作品の声優オーディションの話は、基本的には声優事務所にいく。映画として大規模に公開される作品は、主要キャストに専業の声優ではなく俳優を起用するケースも少なくないが、そもそもオーディションの話が来なければ、話にならない。そうした現状を鑑み、芸能事務所やレコード会社が、声優事務所と組んでプロジェクトを行うケースもあったが、成功と言えるまで成果を出したケースは、果たして幾つ、あっただろうか? そのうち、参入を狙った大手を含む、複数事務所が撤退したという話も耳に入ってきた。やはり、簡単ではなかったのか、芸能事務所がアニメ、声優界に乗り出す動きは収束していった。
今回のOPALISは、第4次声優ブームが起きていた09年に、テンカラットがミュージックレインの親会社のソニーミュージックグループと初めて仕事を共に仕事したことに端を発する。その際、行ったのがミュージックレインに絡む仕事だったということは、縁があったのだろう。そして25年4月に、屋代陽平氏がミュージックレインの代表取締役に就任したことを祝す場を設け、懇談を持った際に、俳優がアニメの声優、声優が俳優として舞台で活躍する状況の中「俳優と声優の壁が溶け始めているのに、2つを同時に目指せる環境が見当たらない」と意見が一致し、今回につながった。
今回のプロジェクトの仕掛け人である、テンカラットの丸谷和貴取締役は、音楽分野を歩んできた人材で、ソニーミュージックグループとの信頼関係も深いことが伺える。同氏の話を聞いていて、芸能界がアニメ&声優界に接近して手がけた、これまでの、どのプロジェクトよりも、芸能事務所と声優事務所が、タイの関係でタッグを組んだプロジェクトであろうと感じることができた。
もう1人のキーマンこそ、ミュージックレインの屋代氏だろう。慶大を卒業した12年にソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、音楽配信ビジネスを経験後、17年に小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げ、19年に同サイトの企画の一貫でYOASOBIプロジェクトを発足させた。“小説を音楽にするユニット”という斬新なスタンスで、YOASOBIを世界的なアーティストにまで押し上げた若き敏腕プロデューサーとして、業界に名をとどろかせている。
屋代氏は、会見の中で「1つはハイブリッド、声優と俳優の垣根を越えた表現者を生み出すことを目指す。2つ目が一気通貫。単なるオーディションではなく育成まで一気通貫。3つ目は選択肢」と3つのポイントを挙げた。「我々は、持っている強みも歩んできた道のりも違います」と芸能界とアニメ、声優界、それぞれが違う世界であると認めた上で「双方の武器を生かして、未来のスターに多様な選択肢を示すのがプロジェクトの強み」と意義を強調。そして「我々は結果として20年間、女性声優。アーティストを中心にマネジメントを行ってきたが男性の役者さんの道も開ける」と期待を寄せた。
その上で、口にしたのが「グローバル」という言葉だ。屋代氏は「ソニーミュージックグループは、従来の音楽ビジネスはもちろんですが、最近ではアニメや実写といった映像ビジネスに関しても、グローバルに競争力を持つ作品を出すに至っていると自負しております」と口にした。
屋代氏が指摘したように、4月9日に終映し、国内興行収入(興収)402億1万900円、全世界興収1179億1753万9329円(米ドルの各月実績を月間平均仲値で円換算)を記録したアニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」(外崎春雄監督)は、ソニーミュージックグループのアニプレックスが製作・配給した。また、邦画実写映画初の興収200億円を突破し、米アカデミー賞で日本映画初のメーキャップ・ヘアスタイリング賞を目指した「国宝」(李相日監督)の製作幹事を務めたMYRIAGON STUDIO(ミリアゴンスタジオ)も、アニプレックスが実写製作事業発展を目指し、23年に始動したスタジオだ。
屋代氏は「映像作品に欠かせない存在である役者の、グローバルスターを生み出すのが日本から世界へ発進していくのに不可欠な取り組み。スターを生み出すことから始めたい」と大目標を掲げた。YOASOBIで世界を席巻したプロデューサーの言葉には、その裏付けたる結果、経験があるだけに実感がこもっている。
記者は田中をはじめ、井浦新(51)高良健吾(38)中条あやみ(29)ら、これまでテンカラットの俳優を幾人も取材してきた。一方、ミュージックレインもスフィアの4人を取材し、メンバーの豊崎愛生と寿美菜子が出演し、アニメ史に残る一大作品となったTBS系アニメ&映画「けいおん!」シリーズの連載も行った。芸能界とアニメ&声優界、両方を取材してきた記者として、OPALISの動向には注視したい。【村上幸将】



