俳優里見浩太朗(89)が、BS朝日の時代劇スペシャル「無用庵隠居修行10」(9月放送)にゲスト出演する。10年目を迎える人気シリーズで、主演の水谷豊(73)と初共演する。水谷演じる元旗本の半兵衛が若き日に陽明学を学んだ、陽明館塾頭の伊藤一斎役。回想シーンで登場する。
里見は「撮影で水谷さんと会ったんですけど、20年ぶりぐらいだったんです。その前はゴルフ場のロビーですれ違って『水谷さん“相棒”の視聴率いいね』『ありがとうございます』っていう感じ。いつ会えるかと思っていて、撮影の日が来て京都の黒谷というお寺(金戒光明寺)で。水谷さんも同じ気持ちで『いや~、20年ぶり』と大喜び。大親友がやっと顔を合わすことができて、20年ぶりに会ったかのように抱きついて喜び合いました。役者人生が70年になりますが、こんなうれしい思い出が残った作品はございません。どんな作品ができたか楽しみです」と話した。
吉川一義監督(91)とは、東映時代からの長い付き合い。「監督も一つ上で、楽しかった。もっと撮影を続けたかった。監督から『浩ちゃん、こんな作品だけど出てくれないか』って、台本をもらった時に『5シーン出ているけど、全部回想だよ』って。それで『回想だけに出てくれることを願って、俺は書いたんだ』って言うから『もう、ちょっと出してくれる』ってお願いしたんです。『浩ちゃんの言いたいことは分かるよ』と言って、できてきた台本が、人間が良心をもって生きていればという素晴らしいものだった」。
完成した台本には4ページに及ぶ長ぜりふがあった。「監督が『浩ちゃん、長いけどワンカットでやるよ』って。90歳近い僕にですよ(笑い)。水谷さん演じる半兵衛が『先生は優しすぎるんですよ。だから悪いやつが出てくる』。それに『おい、半兵衛、聞いてくれ。俺も若い頃には手のつけられない乱暴者。貧乏旗本の息子で、牢屋(ろうや)に入れられた。その時、手を差し伸べてくれた先生がいた。先生が“人には善行の芽がある。情け一つの心だよ。情けの心が尊いんだよ”っていうの。NGは1回だけ。4ページ1カットを2回の本番で』」。
吉川監督は「人は何が大切かというと、人を思う心。それは誰でも持っているんだ。その気持ちさえ持っていれば、人間は生きていけるんだよ」と書いた。里見は「里見浩太朗が演じるのを見て、視聴者が涙を流してくださると思う。回想しか出てこない里見浩太朗が話しているせりふが、人の心をつかみ取って、人を思う心が人間が生きていくにはいかに大事なのかが分かると思う。だからこそ、人を思う心は大切なんだ。それが撮影が終わった後も、僕の心に残っている。里見浩太朗が演じる一人の老人によって、この作品を見る方が『なるほど』と感動してくださるのを、僕は信じてやまない。とてもいい回想シーンですね。吉川さん、ありがとう」と笑った。
吉川監督と里見は、TBS系「水戸黄門」、テレビ東京系「大江戸捜査網」など数々の時代劇でタッグを組んできた。「伊藤一斎のせりふは、何も書いてないんです。吉川監督に文句を言ったくらい。1回、2回、3回と出て行って、そこで一人の老人が今生きている人に何を訴えればいいのか。グワーッと盛り上がって行く、それが味です。やった後に、とても僕は気持ち良かった、すがすがしかった。監督に『ありがとう』『浩ちゃん、まぁまぁだったよ』って。悪くはないということなんだけどね、4ページをノーカットで(笑い)」と振り返った。
時代劇には、現在にも通じる人の心がある。「いい人間がいて、敵役がいて、それを阻止しようとする人がいて、逃げようとする人がいる。そうでなくては、時代劇というのは成り立たないんですよ。『水戸黄門』は、必ずいじめられる人がいて、助ける人がいる。それでなくては成り立たない。そういう人間関係があるからこそ、時代劇が成り立つ。時代劇には必ず悪と善がある。それがうまくいったところに、作品の成功がある」。
水谷との初共演は、しびれるような1カットだった。「僕の役者人生も70年になるから、怖いということはなかった。とにかくできたものを、早く見てみたい。水谷さんは、あったかい人ですね。とっても気持ちがいい。一緒に焼き肉もうなぎも食べに行きました。久しぶりに会った兄弟みたいな思いで、プライベートの時間を過ごせた。基本的に僕と水谷さんは、役に向かって流れる気持ちが似ているんじゃないかな」。
時代劇に身を投じて70年。時代劇のトップスターとして引っ張ってきた。だが今現在、テレビの地上波で時代劇の連続ドラマはレギュラー放送されていない現実がある。「寂しいですね。なんで、やらないんだろう。お金がないんですね。お金がかかるんですよ、時代劇は。現代劇で100人のエキストラを使うとしたら、家から出たまんまで撮影ができる。時代劇は100人いたら、着物、旅わらじと、お金をかけないと絵にならない。20年前、30年前は、僕らは全部やってきたんです。お金がかかるんですよ」
そして「カツラ一つ30万。着物20万円。お金をかけなきゃ絵にならない。時代劇を撮れない現実に、僕たちはやって来ただけに、誰か何とかしてくれと思う、叫びたい思いです。どっかで時代が変わってくれないかな、どうやったらいいんですか、皆さんに期待して、何とかしてくださいというのが、時代劇に携わってきた人間の本当の心ですね」。
役者生活70年。現代劇でも存在感を示した。だが心は常に時代劇とともにある。時代劇とともに生きてきた。それが里見浩太朗。今年、90歳になる。【小谷野俊哉】
◆里見浩太朗(さとみ・こうたろう)1936年(昭11)11月28日、静岡県富士宮市生まれ。56年、東映第3期ニューフェース。57年、映画「上方演芸 底抜け捕物帖」で俳優デビュー、芸名「里見浩太郎」。58年、映画「金獅子紋ゆくところ」で初主演、主題歌「金獅子紋道中唄」で歌手デビュー。70年、里見浩太朗に改名。71~88年、TBS系「水戸黄門」で佐々木助三郎役。74~79年、テレビ東京系「大江戸捜査網」主演。79~82年、テレビ朝日系「長七郎天下ご免!」主演。83~86年、88~91年(平3)に日本テレビ系「長七郎江戸日記」主演。02~11年、TBS系「水戸黄門」で水戸光圀役。12、13年、フジテレビ系「リーガルハイ」。173センチ。血液型A。



