将棋の最年少棋士、藤井聡太五段(15)が、第一人者で国民栄誉賞受賞の羽生善治2冠(47)を撃破した。17日、東京都内で行われた朝日杯オープン戦準決勝で初対局。藤井が先攻し、羽生が反撃に出るぎりぎりの熱戦も、最後は鮮やかな攻めで勝ちきった。続く決勝でもA級棋士の広瀬章人八段(31)を下して、15歳6カ月の史上最年少、現役中学生で初めてとなる全棋士参加の棋戦優勝を果たした。藤井は同日付で、こちらも最年少記録の六段に昇段。優勝賞金750万円もゲットした。
憧れ続けた存在が投了を告げると、藤井も静かに頭を下げた。公開対局の会場に詰めかけた約600人のファンがどよめいた。続いて大きな拍手。持ち時間40分の早指し戦で、羽生との初公式戦を制した。堂々と相手の反撃を受け止め、勝ちきった15歳は「羽生先生と公式戦で対局するのが夢だった。自分の力を尽くして、勝利を収めることができて感無量です」。喜びをかみしめた。
午前10時30分の対局開始時から、特別な緊張は感じられなかった。観戦した師匠の杉本昌隆七段も「気負ったり萎縮したりせず、普段通りだった」と振り返る。初手先手2六歩と突き出すと、研究を続けてきた最新の戦法で積極的に仕掛けていった。
中盤、巧みな指し回しで、永世7冠に不利を意識させた。対局中、相手を上目遣いに見る「ハブにらみ」、局面を複雑化させてミスを誘おうとする「揺さぶり」にも動じなかった。最後は冷静に寄せの手順を読み切り119手で勝利した。
将棋を始めた5歳のころから、羽生は特別な人だった。母裕子さん(47)は藤井が小学生の時、羽生の揮毫(きごう)が入った扇子を持ってうれしそうにしていたのをよく覚えている。プロデビュー後も、しばらくは羽生の揮毫入り扇子を使っていたほどだ。遠くで眺めるだけだった存在が今、肩を並べるほどに近づいた。
続く決勝では、現役A級の広瀬にも勝利した。いずれもトップ棋士を相手に、1日2局を勝ち抜いての棋戦初制覇だ。藤井は「初参加で優勝というのは望外の結果。とてもうれしく思います」と、いつものように謙虚に話した。
また1つ、将棋界の記録を塗り替えた。15歳6カ月での公式戦優勝は、加藤一二三・九段(引退)が1955年、「六・五・四段戦」(現在は終了)を15歳10カ月で制した最年少記録を上回る。中学生での六段昇段も初快挙だ。今月1日付で五段昇段から、わずか16日での達成に「驚いている。自信にもなりました」と胸を張った。
次に目指すのは、最年少タイトルだ。長く将棋界を引っ張ってきた羽生でさえ、初タイトルは89年に竜王を取った19歳3カ月。藤井は優勝後の会見で「(タイトル戦は)将棋界の最高の舞台。自分も実力をつけて、その舞台に立てるよう成長したい」と意識していた。【赤塚辰浩】