西日本豪雨の影響は農業にも広がっている。「愛媛ミカン発祥の地」とされる同県宇和島市吉田町のミカン畑も、大きな被害を受けた。年間約6000トンのかんきつ類を出荷する玉津地区は、特に深刻。大規模な土砂崩れで急傾斜地にある畑がのみ込まれ、農道は寸断されたまま。被害の全体像も分かっていない。10月ごろから始まる収穫に向けて厳しい状況だが、若い農家のパワーで窮地を乗り越える。

 急斜面のミカン畑を背に、海を囲うように広がる玉津地区。山肌には土の茶色が目立ち、スプリンクラーがむき出しになっている。JAえひめ南「玉津共選」の山本計夫(かずお)共選長(65)によると、この地区に住む約400世帯のうち3分の1が農家。その全てがかんきつ類を扱っている。「これから実が大きくなって、町はオレンジや黄色に染まっていくはずだった。本当に残念だ」と肩を落とした。

 同地区のミカン畑の総面積は約500ヘクタール(東京ドーム約107個分)。海に面した急な斜面が特徴で、日当たりと水はけの良さから、甘みの強いミカンができる。35品種以上を生産しており、「宇和ゴールド」や「南柑20号」などが有名だ。

 国土地理院の調査では、今回の豪雨で畑全体の2割が壊滅状態と判断された。だが山本さんは「共選でドローンを使い上空から確認したが(被害は)2割程度では済まない」という。畑に向かう農道は寸断され、被害の全容は分からない。例年なら農薬を水に混ぜてまく害虫対策をする時期だが、スプリンクラーも壊れてしまったため、たとえ畑が無事でも品質の低下が懸念される。同地区に15カ所の畑を持つ清家義夫さん(69)は「出荷できても2、3級品になってしまう。覚悟しないと」と漏らした。

 それでも玉津地区には、若い力がある。愛媛ミカンのブランド力や国の支援もあり、ここ5年で40人ほどの地元出身者(20~30代)がUターン就農した。同志会の会長を務める宮本和也さん(35)は3年前に帰郷し、実家の畑を受け継いだ。若い農家仲間の間では「今が大切な時期。力を合わせてまた町を復活させ、いいミカンを全国に届けよう」と話しているという。

 宮本さんの自宅も床上まで浸水。洪水が起こった7日朝は、地元消防団の一員として避難誘導した。「10分で10センチくらい水かさが上がった。生きた心地がしなかった」。あれから10日。まだ生活基盤も戻らない状況だが、「大変だけど、この町にはミカンしかない。今あるものを守っていかないと。できることから1つずつ、しっかりやっていきます」と前を向いた。【太田皐介】

 ◆愛媛のミカン 農水省によると、昨年の愛媛県産ミカンの出荷量は10万9400トンで、和歌山県に次いで全国2位。かんきつ栽培が盛んな愛媛県の中でも、江戸時代に作付けが始まった吉田町は愛媛ミカンの「発祥の地」とされている。

 ◆04年、愛媛・宇和島出身のヤクルト岩村は「何苦楚魂(なにくそだましい)」と刺しゅうしたグラブを持っていた。