東京地裁は5日、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)の保釈を認める決定をした。保釈保証金は10億円。東京地検はこの決定を不服として、準抗告した。早ければ6日に保釈される。

2度の保釈請求却下を受け、新たに弁護人に就任した「無罪請負人」弘中惇一郎弁護士(73)は、監視カメラ設置など厳格な保釈条件を提示。「裁判所に評価してもらった」と述べた。昨年11月の逮捕から106日。海外からは長期勾留への批判が強まっていた。

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「三度目の正直」で保釈請求が認められたゴーン被告は5日、代理人を通じ談話を発表。「私は無実であり、この無意味で根拠のない罪に対し、公正な裁判を通じ強く抗弁する」と主張した。東京地検の準抗告も、同日夜に棄却。弁護人は、被告の希望を受けて準抗告棄却後に保釈保証金を納付する構えで、6日に納付後、保釈される見通しだ。同被告は家族が用意した都内の住居に滞在する。

これまで弁護を担当してきた元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士らが辞任。弘中氏が弁護人に就任したことが潮目を変えた。

2月28日、3度目の保釈を請求。過去2度の保釈請求では、米当局が保釈中の被告らの逃亡防止に使う装置の装着などを提示したが、認められず、弘中氏は「不自由かもしれないが、説得力ある申請」(同氏)を、地裁に提出。<1>国内に住み、住居の出入り口に監視カメラを設置<2>パスポートは弁護人が管理し、海外渡航禁止<3>日産幹部らとの接触禁止<4>日産の取締役会に出席するときは裁判所の許可を得る<5>パソコンや携帯電話の使用制限などを提案した。カメラは終日録画し、映像は定期的に地裁へ提出。携帯電話にメール機能は付けず、弁護人としか通話できない。パソコンを使う際は、平日の日中に弁護人の事務所に行くとの条件も。ゴーン被告は嫌そうな顔をしたが、弁護人の説得を受けて納得したという。

弘中氏は「決定が出てよかった。厳しい条件を設定し、裁判所に評価してもらった」。多くの注目裁判で無罪を勝ち取り、「無罪請負人」「カミソリ」の異名も。日本外国特派員協会の4日の会見で「73歳だが、まだカミソリの切れ味があるか試したい」と述べた通りの切れ味。保釈後、ゴーン被告の会見も検討する。

勾留の長期化で、海外で「人質司法」批判が拡大しており、保釈決定の一報は、海外メディアが一斉に速報した。フランスのレゼゴー紙は「サプライズ」と報じ、米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は「日本では多くの西側諸国と比べ、被告が長期間拘束、尋問されることが注目された」と指摘した。

一方、東京地検特捜部は別の中東ルートの捜査を続行中で、保釈なら影響は必至だ。検察幹部らは、「裁判所は外圧に屈したと宣言した」と憤りを隠さない。