「テニスコートの恋」で知られる天皇、皇后両陛下のなれそめの場となった長野・軽井沢の「軽井沢会」テニスコートは、当時の面影を残したまま、今も会員制で使用されている。おふたりは1989年の即位後も、何度もテニスコートに足を運ばれた。両陛下は思い出の場所としても、お立場からは難しくなった友人や地元住民との触れ合いの場としても、ずっと大切にされている。

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軽井沢会テニスコートができたのは明治時代。100年以上の歴史を誇る。天皇、皇后両陛下がコートで出会われたのは57年夏。一般財団法人「軽井沢会」テニス部委員会委員長の諸戸清郎さん(70)によると、「テニスコートの恋」当時は丸太を支柱に使ったフェンスだったが、今は完全な金網フェンスになった。ほか、受付入り口の小屋やクラブハウスの建て替えがあったが、見た目はあまり変わっていないという。会員制だが、オフシーズンは非会員でも要予約で1日4000円で利用できる。

即位後に両陛下がコートを訪れたのは7回。当然、警備が強化されたが、目立たないようにと、慣れない白いテニスウエアを着たSP数人がコート内で警備に当たった。昨年、一昨年とスタンドから会員のプレーを見守られた際、諸戸さんが案内役を務めた。両陛下がお帰りになる際、ずらりと並んだ会員に顔なじみを見つけるとうれしそうに、「お元気ですか」「お子さんは大きくなったわね」と声を掛けられた。会員から急に自己紹介されても笑顔でお言葉を返すなど、和やかな雰囲気だったという。

両陛下は13年までプレーをされている。諸戸さんは「おふたりともプレーは堅実です。夫婦でダブルスを組むと普通けんかになるのですが、笑顔で『ナイスショット』と言い合ったり、陛下が美智子さまに来た球を『オーライオーライ』と言いながら打ってフォローしたり、仲むつまじいご様子でした」と振り返る。

昨年のコート訪問はわずか15分。諸戸さんは「軽井沢にいらっしゃると、お忙しい公務の合間を縫って、すっとコートにいらっしゃる。わずかな時間でも毎回コートにいらっしゃるのは、やはりおふたりの思い入れが強いからでしょう」とみている。さらに「今年の夏はぜひゆっくりお越しいただければ」と話した。

コートは冬季休業を経て4月26日にオープンしたばかり。ご退位の同30日は例年と変わらず、会員がプレーを楽しむ予定だ。【近藤由美子】