「もう1度、会いたい」-。京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオの放火殺人事件で、安否の分からない同社社員の大野萌(めぐむ)さん(21)を案じる祖父の岡田和夫さん(69)が日刊スポーツの取材に応じ、胸の内を語った。事件発生から6日目となった23日も、現場にはファンらが続々と献花に訪れた。

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京都府木津川市の自宅で、岡田さんは目に涙を浮かべて、孫娘からもらった誕生日プレゼントを見つめた。今年4月、「じいちゃん、誕生日はなにがいい?」。萌さんの問いかけに「何もいらんよ。気持ちだけでええよ。ありがとう」と返した。

しばらくして萌さんが自宅に届けてくれたのは、プロ野球・広島カープのロゴが箱に描かれた特別版の辞書だった。木津川市に両親と姉と暮らす萌さんは「よっ、じーちゃん」と、よく顔を見せに来てくれた。気さくで明るく、家族の中ではムードメーカーだった。何げない会話の中で広島ファンの岡田さんが「カープの辞書があるらしい…」と話したことがあった。萌さんはネットで検索し、取り寄せ、プレゼントしてくれた。家族思いの自慢の孫だった。

「一生懸命に働いて、もらった給料から買ってくれた。そんな気づかいができる子…」

岡田さんによると、萌さんは幼いころからアニメが大好きで、小中学校では絵画コンクールで入賞することが多かった。「京都アニメーションで働きたい」との一心で、高校卒業後の1年はアルバイトをしながら絵の勉強に励み、2年前の春、念願かなって入社が決まった。

最近では、映画の終幕に名前も出るようになった。「萌は『もっともっと頑張って、エンドロールに大きく名前がのるようになりたい』と話していた」。事件のあった18日、いてもたってもいられず、現場に駆けつけた。焼け焦げた建物を見た岡田さんは「なんで、あの子が…。犯人には、怒りしかわいてこない」。事件当日、行方不明者の中に萌さんの名前があった。現在はDNA型鑑定の結果を待っている状態だ。

岡田さんの携帯電話の待ち受け画面には萌さんの写真がある。「萌が待ち受け画面にしてくれた」という画面を見つめながら岡田さんは声を震わせた。「もう1度、会いたい…」。【松浦隆司】