ラグビーワールドカップ(W杯)を特別な気持ちで迎えたパイロットがいる。20日の東京での開幕戦前と、25日の岩手・釜石での初戦前に、宮城・松島基地を拠点にする航空自衛隊ブルーインパルスが復興への思いを込めてパフォーマンスを予定する。その6番機・佐藤貴宏1尉(33)は東日本大震災で壊滅的被害を受けた岩手県山田町の出身だ。震災後最大級のスポーツイベント開催を喜び、「1人でも多くのみなさまに笑顔を」を胸に飛ぶ。

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19日夕方、ブルーインパルスは、開幕戦会場の東京・味の素スタジアム上空で事前訓練を行い、準備を整えた。本番ではスモークで「さくら」という演目を披露する予定だ。「桜」はラグビー日本代表のエンブレムでもある。その6機編隊に、佐藤さんの6番機もいる。航空自衛隊のパイロットには1人ひとり、TACネームという愛称が与えられる。佐藤さんは「RIAS(リアス)」。故郷・三陸のリアス海岸を指す。

05年に入隊。3・11の時は奈良県の幹部候補生学校にいた。故郷の山田町は、津波と火災で甚大な被害を受けた。両親は秋田に引っ越していたが、小中学時代の同級生らが亡くなるなど、ほとんどの知人が被災し、大きなショックを受けた。数カ月後の11年8月、6年間の教育訓練を終え、北海道・千歳基地に配属。TACネームが決まった。「いつまでも熱い岩手魂をもって飛行訓練に励みたいと希望したところ、上司から採用していただきました」という。

千歳ではF-15戦闘機に乗り、17年8月に宮城・松島基地のブルーインパルスに配属された。公式HPには「岩手三陸海岸の魂が入った6番機の熱い演技にご期待下さい」の言葉を掲載した。25日には釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムの第1試合前式典でも飛ぶ。「震災から8年半でこのような国際大会を開催できることがすばらしく、地元で飛行できることにも喜びを感じています。三陸海岸で培った『やる気・元気・負けん気』精神をもって、1人でも多くのみなさまを笑顔にできるようなフライトにしたいです」との思いを秘めている。

岩手・大船渡高校出身。サッカー部だった。6月には母校で「夢の実現について」の題で講演した。自分が小学校の卒業文集に書いた夢を実現しただけに、ドラフト注目の佐々木朗希投手ら後輩にも「1人でも多く夢に向かって前向きに頑張ってほしいと思っています。夢は必ずかないます」と激励する。

20日は、埼玉・入間基地を発着する。64年東京オリンピック(五輪)で五輪マークを描いた先輩たちが発着した場所だ。来年の復興五輪について聞くと「もし機会を与えてくださるなら、ぜひ飛行したいと思っています」。RIASはそう答えた。【久保勇人】

福田哲雄隊長(42)の話 選手のみなさまには熱いエールを込め、幾多の困難を乗り越えてこられた東北のみなさまには笑顔をお届けしたいと思います。また、世界のみなさまには、活気を取り戻した東北、日本の姿を伝えることができればと思っています。

◆ブルーインパルス(Blue Impulse) 正式名称は、宮城県・航空自衛隊松島基地の第4航空団・第11飛行隊。アクロバット飛行(展示飛行)を披露する広報チームで、スモークを使った空中描画などで知られる。1960年に初めて展示飛行を実施。64年の東京五輪開会式で五輪を描き、世界的にも知られるようになった。現機体は3代目のT-4。国産機で、全長13メートル、全幅9・9メートル。青と白でカラーリングされている。

<ブルーインパルス・パイロット>

1番機(編隊長)

▽飛行隊長 福田哲雄2等空佐(42)=埼玉県、群馬大学

▽飛行隊長付 遠渡祐樹2等空佐(40)=山形県、東京国際大学

▽飛行班長 海野勝彦3等空佐(43)=静岡県、静岡東高校

2番機(左翼機)

▽中條智仁1等空尉(33)=三重県、四日市高校

▽住田竜大1等空尉(31)=北海道、北嶺高校

3番機(右翼機)

▽久保佑介1等空尉(32)=鹿児島県、千葉英和高校

4番機(後尾機)

▽村上綾1等空尉(34)=福岡県、豊津高校

▽永岡皇太1等空尉(32)=宮崎県、都城西高校

5番機(第1単独機)

▽元廣哲3等空佐(39)=広島県、広島新庄高校

▽河野守利3等空佐(37)=佐賀県、航空自衛隊生徒44期

6番機(第2単独機)

▽佐藤貴宏1等空尉(33)=岩手県、大船渡高校