史上最年少で将棋タイトルを獲得した藤井聡太棋聖(17)の地元・愛知県瀬戸市では歴史的な快挙から一夜明けた17日、お祝いムードに包まれた。

市役所に「祝プロ棋士藤井聡太棋聖 史上最年少タイトル獲得!」と書かれた懸垂幕が掲げられ、喫茶店でも特別メニューが出されるなどした。藤井は大阪市の関西将棋会館で記者会見。歴史的な快挙を達成した17歳はどんな「未来」を歩むのか。集中連載の2回目をお届けします。

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「多くの棋士が藤井の将棋をまねる時代が来るかもしれない」。かつて、そう予言したのは師匠の杉本昌隆八段(51)だった。16年10月、最年少の14歳2カ月でプロ入り。数々のスピード記録を塗り替えていた藤井が、まだ四段のときだった。弟子の驚異的な進化のスピードを感じながら、その思いを強くしていた。

藤井が人工知能(AI)を搭載した将棋ソフトを使うようになったのはプロ入りを争う奨励会の三段リーグ戦に参加した中学生からだった。

藤井が小学校時代、杉本は母裕子さん(50)からソフトの使用について相談されたが、待ったをかけた。 「自分で考えて自分で結論を出してほしかった。ソフトの判断を信じて思考停止するのが怖かった」

小学4年で弟子入りした藤井は才能が突き抜けていた。「プロのセオリーであったり、こういう指し方のほうが勝率が高い、そんな教え方をしないほうがいい」。手軽にソフトに「答え」を求めるのではなく、思考力を研ぎ澄ませてほしかった。

初タイトルを奪取した今シリーズは、難解な読み合いが続いた。藤井の強さが集約されていたのは第2局だった。その妙手は「AI超え」とも言われた。攻めのため駒台に置いていた銀を受けに使った「後手3一銀」だ。この局面で4億手を読んだ最強将棋ソフトは当初、最善とは判断しなかった。ところが、長時間かけて6億手まで検討すると、絶妙手と分かった。藤井は23分考えて指した。最善手を短時間で指す「6億手を読む棋士」。最強将棋ソフトが導き出す「定跡」を覆す藤井将棋の真骨頂だった。

杉本は言う。「たぶんひらめきが先にきている。読みから入ったら速すぎる」。では、そのひらめきはどこから来るのか。「人間」藤井が持つ感性から生まれるのではないかとみている。

脳科学者の茂木健一郎氏(57)は「定跡を研究するより、ゼロから自分で考えて最善手を導き出す。そのアプローチが徹底している。藤井さんは、常識とか知識にとらわれない、自由形の思考回路の持ち主。AI時代における人間の学習方法のモデルケースであり、偉大な実験の先頭を行く麒麟児(きりんじ)でしょう」と言う。

藤井はAIに思考を委ねることの危険性も自覚している。第4局の終局後の記者会見で「ソフトの読み筋や評価値を見て、自分の考えと照らし合わせてという使い方が多いです」。

ITと棋士がどう協調していくのか。その道を探った中学生棋士としてデビューした「先駆者」がいた。(つづく)【松浦隆司、赤塚辰浩】