史上初めて全8冠制覇を達成した藤井聡太8冠(21)は異分野のトップとも対談などで交流して、棋力を飛躍的に進化させてきた。ノーベル生理学・医学賞受賞者の京都大学iPS細胞研究所名誉所長、山中伸弥教授(61)からは「失敗を恐れず挑戦する」ことなどを学んだ。ビジネス界のカリスマ、元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎さん(84)からは「知見を広げること」の大切さを学んだ。偉業達成に、2人が祝福のメッセージを寄せた。
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山中さんは次のように温かい祝福の言葉を贈った。「史上初の全8冠制覇、心よりお祝いを申し上げます。歴史的な偉業達成に、心から感動しました。藤井さんはまだ21歳という若さです。これからも、まだ誰も歩んだことない道を切り拓き、将棋界に新たな歴史を刻んでいかれることでしょう。今後のさらなるご活躍を楽しみにしております」。6月の名人位獲得の際にも快く、親密なメッセージをつづっていた。
藤井は18年8月に山中さんの研究所を訪ねて以来、対面やオンラインなどで交流を続けた。年齢差は40歳だが、山中さんは「藤井さん」と呼ぶ。それぞれの分野の最前線で挑戦を続ける2人は、学び方、将棋、医学、人工知能(AI)などさまざまなテーマについて語り合った。その対話は21年12月に共著「挑戦 常識のブレーキをはずせ」として発表。先月には「前人未到」と改題して文庫化された(ともに講談社刊)。
藤井は、山中さんの異分野の知識に触れることがiPS細胞発見の弾みになったという体験談、「失敗を恐れずに挑戦する」との言葉が特に心に残ったという。山中さんは「常識というブレーキをはずす」という話も伝えた。藤井の絶妙手はときに「AI超え」とファンをわかせ、プロ棋士をも「人類には思い浮かばない」とうならせる。常識のブレーキをはずして挑戦する姿勢に、山中さんの言葉が重なる。
同じ愛知県出身の丹羽さんとは、高校に入学して間もない頃に初めて会った。丹羽さんは藤井を「63歳離れた最も若い友人」と呼び、今も交流が続いている。丹羽さんは「若くして8冠になり、日本人としてうれしい。これからは日本の将棋を世界に広めていってもらえればと思う。藤井さんもそういう気持ちを持っておられるんじゃないかな」と声を弾ませた。丹羽さんと藤井の対談は21年8月の共著「考えて、考えて、考える」にまとめられ、今月13日に文庫化される(ともに講談社刊)。
伊藤忠の社長時代にバブル期の多額の不良債権を一括処理して会社を立て直した名経営者からは、読書や旅行で「知見を広げること」を教わった。全国を転戦するタイトル戦では、鉄道大好きの藤井は「乗り鉄」をして対局場に向かう“プチ旅行”を楽しむ機会も増えた。
人類の知能はどこまで進化することができるか? 歴史を刻む先駆者の「挑戦」に丹羽さんは「友人として、人間として、心から応援したい」と結んだ。【久保勇人、松浦隆司】
◆山中伸弥(やまなか・しんや) 1962年(昭37)、大阪府生まれ。87年、神戸大医学部卒。米グラッドストーン研究所、奈良先端科学技術大学院大などを経て、04年に京都大教授、10年から京都大iPS細胞研究所の初代所長。iPS細胞の作製に成功し、12年にノーベル生理学・医学賞を受賞。趣味はマラソン。
◆丹羽宇一郎(にわ・ういちろう) 1939年(昭14)、愛知県生まれ。名古屋大卒後、伊藤忠商事入社。98~04年社長、04~10年会長。10~12年に戦後初の民間出身の駐中国大使を務めた。20年11月、藤井のタイトル戦の王位就位式では来賓として祝辞を述べた。著書に「仕事と心の流儀」「日本をどのような国にするか」など。

