今年は日本初の東京オリンピック(五輪)が開かれた1964年(昭39)から60年。その年に生まれたお菓子が「やめられない、とまらない♪」で知られるかっぱえびせんだ。9年の試行錯誤を経て完成された製法は60年変わらず、日本を代表するスナック菓子であり続けてきた。エビをまるごと使う発想は今のSDGsにもつながる。年間約1億6000万袋も生産されるロングセラー商品の秘密を、カルビーの担当者に聞いた。【中山知子】
◇ ◇ ◇
子どものころはお菓子として、大人になるとお酒のおつまみにも。年代を問わず親しまれているかっぱえびせんが今年、誕生から60年の「還暦」を迎えた。
カルビーマーケティング本部で、かっぱえびせんチームブランドマネジャーを務める塩崎高広氏(39)によると、商品を生み出したのはカルビー創業者の松尾孝さんだ。創業は1949年(昭24)の戦後間もないころ。「栄養豊富で腹持ちがいいものを食べさせたい」と商品開発を行う中、55年、かっぱえびせんの前身となる「かっぱあられ」が生まれた。小麦粉を使ったあられで、「かっぱ」のネーミングは、当時の人気連載マンガ「かっぱ天国」の作者、清水崑さんに使用許可を得たもの。自身の親族が清水さんの子どもと同級生という縁をたどり直談判したほどのこだわりで、パッケージにもかっぱのイラストが描かれた。
この商品も当時は売れたそうだが、松尾さんは「もっとおいしくしたい」と、あられにいろんな材料を練り込んだり、味付けや形を変えるなど試行錯誤を繰り返したという。エビ以外にもイカやカキ、タコなどさまざまな素材を使って試作を重ねたが、ある日瀬戸内海で干された川エビを目にした時、子どものころ大好きだった母親お手製の川エビの天ぷらが頭に浮かび、そのイメージを開発に投影。「栄養豊富で腹持ちよく」というテーマは崩さずおいしさを追求した結果、「鮮度のいいエビを頭からしっぽまでまるごと」「蒸さずに生のまま」などの製法にたどり着いた。
試行錯誤は9年。この間、26の商品が生まれ、27番目の商品として誕生したのがかっぱえびせんだった。
生のエビを殻ごとまるごとミンチ状にして生地を作り、裁断して炒(い)る。この製法は当時も今も変わらない。「その時からおいしくて完成度の高いものができていたことが、今のベースになっている。すごいと思います」と塩崎さんは話す。
身以外の部分は廃棄されることもあるエビをまるごと使う発想は、今のSDGsにもつながる。先見の明も持ち合わせていた。「頭からしっぽまでというのは(全部使わないと)もったいないというのもありますが、その方がおいしくなるという方が先にあったと思う。(殻には)カルシウムが含まれる。栄養素の面でも、選択されたのではないか」と塩崎さん。「当時使われていた小さなエビは、大量消費はされていなかったようです。小麦粉も当時、日本に安価で入ってきていたが、今ほど活用されていなかった。そういう面では未利用資源の活用という観点もあったと思います」とも話した。
「やめられない、とまらない♪」のキャッチフレーズも当時のまま。年間約1億6000万袋が生産され、これまでに発売された種類は200種類に及ぶ。早い時期から海外に目を向け、発売2年後の66年には東南アジアとハワイ、翌67年には米国に進出した。
60年愛されるかっぱえびせんを生み出した松尾さんの思いは、今も社員に継がれているという。「よく言われていたのが、スナック菓子の鮮度。どれだけ早くお客様のもとに届けられるのかというところにこだわられていた」。売り上げよりむしろ、いかに新しい商品が店頭に並んでいるかが評価の対象になっていた。また、社員それぞれが1つのことに集中して良い商品を世に出すという「1人1研究」という考えも。「かっぱあられ」の発売直後、カルビーはアメやキャラメルといったお菓子も製造していたが、すべて撤退し、かっぱえびせん誕生への研究開発に集中した。
誕生から60年を迎えたかっぱえびせんの今後について、今後は「100年を目指したいと思っている」(塩崎さん)。子どものころ親しんで大人になった世代に、あらためて浸透してほしいという思いがあるほか、若者世代への発信にも力を入れる。2012年には「かっぱえび家」という家族4人のキャラを製作し、20年以降はパッケージにも登場。若い世代から好評価を得るなど、新たな「顔」に成長しつつあるという。
創業者の「試行錯誤」から生まれたかっぱえびせん。時代が変わっても形を変えながら続く「試行錯誤」が、ロングセラーを支えているのかもしれない。
■発祥の地・広島で記念イベントめじろ押し
カルビー創業者の松尾孝氏の出身地で、同社の前身「松尾糧食工業」があった発祥の地・広島市では、かっぱえびせん発売60年を記念したイベントがめじろ押しだ。1月8日には、広島工場に全国からファン15人が集まり、初のファンミーティングが行われた。また、かつて工場がおかれた地区にある広島市の神田神社では、毎年の節分祭で豆とともにかっぱえびせんの袋をまくが、今年は60年を機に横断幕を新調。今年の節分祭でも「えびせんまき」が行われた。
広島の市電、広島電鉄では、3両編成をかっぱえびせんのデザインで外装をラッピングした電車の運行を5日から1年間、広島駅~広電宮島口駅間でスタート。車内の中づり広告などを「かっぱえびせん」で飾った「車内ジャック」も、3月5日まで実施する。また来月8日にマツダスタジアムで行われる広島カープの今季オープン戦初戦でも、1万人に26グラムかっぱえびせんをサンプリングする予定だ。
■「ポッキー」「ハイチュウ」ロングセラーのお菓子
「かっぱえびせん」と同様、ロングセラーとして親しまれている日本のお菓子は多い。江崎グリコの「ポッキー」は1966年(昭41)に誕生し、まもなく発売60年を迎える。同社の「ビスコ」は戦前の1933年に生まれ、当時は1箱10銭だったとされる。
1959年に生まれた「ベビースターラーメン」は「ラーメンをそのまま食べる」という発想で誕生し、今年で発売から65年。また森永製菓の「ハイチュウ」は1975年に誕生。今では米国をはじめ30を超す国と地域で販売される人気商品となっており、森永製菓は今月5日、ブランドロゴを「HI-CHEW」の英表記に変更すると発表した。