インターネットを中心に、人を傷つける言葉があふれています。近年は選挙でも誹謗(ひぼう)中傷やデマなどの問題が深刻化しています。国は22年に侮辱罪を厳罰化。法務省は昨秋、3年間の状況と刑が確定した事例を公表しました。
どんな言葉が罪になり、どんな代償を負うのか─。実例をみて、日ごろの言葉のやり取りを見つめ直してみませんか。ネット上のトラブルの相談に取り組んでいる専門家に相談の状況や、被害を受けた時のアドバイスや加害者にならないための注意も聞いてみました。
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法務省の資料によると、25年6月末までの約3年間に侮辱罪だけで処理されたのはのべ667人。うち略式命令請求を含め起訴されたのは、ネットの事案で約36%、ネット以外で約20%。罰金か科料が確定したのはネット104人、ネット以外70人。罰金刑が科された割合はネット約82%、ネット以外約47%です。ネットのうち最も多かったのが10万円以上20万円未満の罰金で71%を占め、30万円以上も5%。ネット以外では1万円未満の科料が53%、10万円以上20万円未満の罰金が43%です。
事例集では、173件について、具体的な内容や罰金の金額が公表されています。SNSや掲示板に投稿された「バカ」「アホ」「きもい」「クズ」など、生々しい言葉が並んでいて、ネット以外の場も含めて、どれも、ともすると怒りや恨みの勢いにまかせて使われたり、口にしそうな言葉ばかりです。
警察庁の報告によると、侮辱罪の認知件数(告訴や被害届を受理した数)は、厳罰化された22年には267件と前年比で約2倍に、24年には393件に増加しているそう。うちネットを利用したものは、24年で全体の約57%。検挙件数は、22年は166件で前年比約70%増。24年は277件でした。
法改正では、施行後3年経過した時に、施行状況がネット上の誹謗中傷に適切に対処できているか、表現の自由などに対する不当な制約になっていないかなどの観点で検証を行うことになっています。法務省は昨秋から有識者らによる検討会を続けており、報告書をまとめる方針です。気持ちや勢いにまかせてSNSなどに投稿したり書き込む時は、その内容で大丈夫か、送信前にちょっと考えてみませんか?!
ネット上のトラブルに関する相談窓口はいろいろあって、総務省委託事業の「違法・有害情報相談センター」(https://ihaho.jp/)もその1つです。センター長を務める上沼紫野弁護士によると「誹謗中傷の書き込みを削除したり、相手を特定するにはどうしたらいいのかなど、ネット上のトラブルに適切に対応するためのアドバイスや情報提供を行っています。削除代行はしません。やり方を調べて、この窓口にこう書いて送ったらいいですなどとアドバイスします。自分でできない場合、事業者から拒否された場合などは弁護士に依頼してもらいます。発信者の情報開示含め、そういうケースは基本的に裁判になります」と説明します。
同センターの相談件数は23、24年度ともに6400件を超え、高止まり傾向だそう。被害者の年代は、20代が約27%で最も多く、30代約20%、40代約16%。相談内容は、誹謗中傷に関するものが約62%(本人申告ベース)。求める対応については、情報を削除したいが約59%と圧倒的に多く、発信者の特定方法を知りたいの約25%が続きます。
上沼さんは典型的な相談例として「自分の画像や映像が許可なく掲載されている」「掲示板に誹謗中傷が繰り返し書き込まれている」「地図サイトの店舗の口コミに誹謗中傷が書き込まれた」などを挙げ、「個人情報や誹謗中傷の内容が悪質な場合は警察への相談方法を案内するケースもあります」とも。
侮辱罪の法改正の影響については「今まで泣き寝入りするしかなかったケースでも、そうではないことが分かったのか相談が増えています」と指摘。一方で「最近は被疑者側からの相談も増えている印象」だそう。上沼さんは、第二東京弁護士会による「子どもSNS相談」も担当していますが「加害側からの相談が増えていて“情報開示されますか”“こんなこと書いたけど大丈夫ですか”など心配でしょうがないという内容です」。
なお「詐欺的な内容や脅迫的な言葉は、それ自体は権利侵害には当たらず、発信者情報開示請求の対象とはならないため、警察への相談をすすめています」と説明。例えば、ロマンス詐欺、投資詐欺、金を送らないと写真をさらす、などが相当するそうです。
■加害者にならないため 被害を受けた時…どうすればいい?
ネット上で実際に自分が被害を受けた時はどうすればいいのでしょう。上沼さんは「まずはブロックする、自分を検索しない、見ないようにする。ほとんどは一過性で、しばらくすれば落ち着くことが多いです。中傷され弱っている時は権利行使する気力も起きません。まず自分のメンタルを復活させるようにしたほうがいいと思います」とし、「削除してほしい場合はまず事業者に依頼する。応じてくれない場合は民事裁判で削除と発信者情報開示を請求する。警察に相談し告訴する方法もあります」などとアドバイスします。
加害者にならないための注意については「行動と違って、ネットに書けば残ることを忘れてはいけません。侮辱罪は公然が要件。話すのと違い、ネットでは書いた時点で公然の要件が満たされます。当事者同士だけでなく、誰にでも見られます。渋谷の交差点のビジョンに書いているようなもので、みんな普段は見てないけど、だれかが気づいたとたんに広がり炎上します。だれに見られても大丈夫なことを書くよう意識すべきです」。
上沼さんはさらに「デジタルネーティブの子どもたちは“そんなもめごとはネットでやっちゃだめ、直接話さないと”なんて言うようになっているらしいです。実は一番危ないのは、教わらないままネットデビューした40~50代。加害者にもなりやすいです」と注意をうながしています。【久保勇人】
<侮辱罪>
侮辱罪(刑法231条)は、プロレスラー木村花さんがSNSで誹謗中傷されて亡くなった被害を機に厳罰化されました。22年施行の改正された条文は「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する」。公訴時効は3年。親告罪で、被害者が警察に告訴する必要があります。改正前は拘留(30日未満)または科料(1万円未満)で、時効も1年でした。名誉毀損罪の3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、時効3年と比べて非常に軽かったのです。
名誉棄損罪は「事実」を示している場合で、侮辱罪は「事実」を示さなくても成立します。ここでいう「事実」は、真偽にかかわらず被害者の社会的評価を下げる具体的内容を指します。例えば「●●は違法取引をしている」という表現で、その内容が本当でもウソでも名誉棄損罪が成立しえます。侮辱罪は「バカ」といった悪口、抽象的表現で対象になります。
【侮辱罪の事例】(※法務省が25年9月に公表。22年7月以降の犯行で、侮辱罪のみで25年6月末までに裁判が確定した事例の一部、概略。1万円未満は科料、1万円以上は罰金という。173件の全文は法務省HPを参照)
▶ネット上
●SNSに3回にわたり「被害妄想狂の(団体名)(被害者の名前)笑」などと掲載=罰金10万円
●SNSに12回にわたり、被害者の画像データとともに「臭い奴」などと掲載=罰金10万円
●ネット掲示板の「ブラック企業」と題するスレッド内に「(被害者勤務先 名)の(被害者の名前)は最低人間」などと投稿=罰金10万円
●検索サイト上の被害者勤務先の口コミ欄に4回にわたり「この病院、最低です。(駅名)(被害者勤務先名)」などと投稿=罰金20万円
●SNSに被害者について「社長は物忘れが異常です」などと投稿=科料9900円
●被害者が使用するSNSアカウントに「うるせえ だまれ 人殺し」と掲載=罰金10万円
●SNSに「なかなか手強いですよ?(被害者の氏名)はバカなので」などと掲載=罰金10万円
●ネット掲示板に「(被害者の氏名)マジでデブだしきもいね」などと投稿=罰金10万円
●SNSに「ハゲの(被害者を揶揄する言葉)。本当にこいつクズ中のクズ」などと掲載=罰金20万円
●SNSに被害者について「あのアホは、あのアホ男は」などと発言する動画を投稿=罰金10万円
▶ネット以外
●被害者方付近の路上で、被害者に対し「大馬鹿」「あほー」などと放言=科料9900円
●バス車内で被害者に対し「ばかが」と言った=科料9900円
●喫茶店で被害者に対し「バカ、ブス、死ね」などと大声で言った=科料9000円
●路上で被害者に対し「あばずれが」などと大声で言った=科料9000円
●病院内で被害者に対し「この老害が」などと大声で言った= 科料9000円
●電車内及び駅構内で被害者に対し「見れば分かるだろハゲ」などと言った=罰金10万円
●コンビニで被害者に対し「金払えよ、泥棒」などと放言した=罰金10万円
●駅構内で被害者に対し「バカ」「バカじゃねえの」などと言った=罰金10万円
●路上で被害者に対し「おい障がい者」などと言った=科料9000円
●会議室で被害者に対し「バカかお前は」「ポンコツな仕事をしてる」などと放言した=科料9900円
◆久保勇人(くぼ・はやと)1984年入社。文化社会部、アトランタ支局、スポーツ部など経験。

