皐月賞は混戦ムードだ。出走馬のステップ戦も多岐にわたり、レースレベルの分析が重要になってくる。水島晴之「G1の鍵 その一瞬」は、共同通信杯組に注目。中でも2着タッチウッド(牡、武幸)は、粗削りながらもポテンシャルの高さを示した。G1級の走りを検証する。

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共同通信杯はファントムシーフが2番手から抜け出して勝利。東京1800メートルの勝ち時計は1分47秒0。レースの上がり3ハロンが34秒1の好内容だった。同日の初音S(3勝クラス)が1分46秒6、上がり34秒5だから、3歳の2月という時期を考えれば、かなり中身は濃い。

勝ち馬には差されたものの、タッチウッドの2着も能力の高さを示すには十分な競馬だった。スタートで出遅れ。というよりダクで出てスピードに乗らなかった印象だが、その後は収まりがつかず掛かり気味に先頭へ。2、3ハロン目のラップは11秒1、11秒3だから、この馬は10秒台が出ていたことになる。

共同通信杯を制したファントムシーフ。左は2着タッチウッド
共同通信杯を制したファントムシーフ。左は2着タッチウッド

流れの速いところで動けば、それだけ体力を消耗する。前半1000メートルは60秒5のスローだが、ペース以上に力を使ってしまったのは容易に想像がつく。しかも4コーナーを逆手前(左回りなので本来は左手前に替えるところを右手前)で入ったため、外へ膨れるロスも生じた。粗削りな面を見せながらの1馬身1/4差は勝ちに匹敵する。

しかも、先着した4着タスティエーラは続く弥生賞を勝ち、6着シーズンリッチは毎日杯を制した。また3着ダノンザタイガーも東スポ杯2歳S2着時にドゥラエレーデ(後にホープフルS勝利、UAEダービー2着)を負かしている。このハイレベルな一戦をデビュー2戦目、若さ全開の競馬で連対した能力はG1でも通用していい。

これまでの競馬から逃げ馬の印象が強いが、新馬戦では最速11秒0、最遅13秒2とめりはりの利いたラップを踏んで、2着に6馬身差の圧勝だった。仮に控える形になっても、折り合いさえつけば力は出せる。3戦目というキャリア不足を補うポテンシャルの高さに懸けてみたい。そんな魅力を感じる1頭だ。

■各レースレベル検証

【ここが鍵】

昭和、平成の初期くらいまで皐月賞の前哨戦といえば弥生賞、スプリングSが中心だった。しかし、最近はダービーまで視野に入れて間隔を空ける陣営が多くなった。今年も京成杯組、共同通信杯組はもちろん、ダノンタッチダウンは暮れの朝日杯FSからの直行だ。

その他にも若駒S、若葉S、すみれSなどから回ってくる馬もおり、直接対決が少ない分、各馬の能力比較が難しい。こういう場合はまずレースレベルの検証から入るべきだろう。着順、時計だけでなく競馬の内容、相手関係なども考慮して結論を導きたい。

■タスティエーラ 自在性強み

タスティエーラは一戦ごとに力をつけている。共同通信杯は勝負どころでもたついたが、2カ月半ぶりが微妙に影響したのかもしれない。弥生賞では早めに仕掛けて押し切る好内容。反応も良くなっていた。新馬を2番手から33秒5で差し切った瞬発力があり、前走のように長く脚も使える。どんな流れにも対応できる自在性は強みだ。

■トップナイフ 穴が少ない

トップナイフは勝っても負けても小差で派手さはないが、いつも堅実に走ってくる。弥生賞は3、4コーナーでいったん控えて、直線の内から盛り返す好内容を見せた。流れが遅ければホープフルSのようにハナも切れるし、我慢するところではきっちり脚もたまる。とにかくレース巧者で穴が少ない。「よーい、ドン」の瞬発力勝負では厳しいが、ゴール前のたたき合いになればしぶとさが生きる。

■ファントムシーフ 小回り対応

共同通信杯のファントムシーフは、タッチウッドが途中から行ってくれたことで展開は楽になった。もし逃げていたら目標にされる分、簡単ではなかったと思う。それでも上がり34秒0できっちり差し切り、後続の追い上げを封じた内容は評価できる。中山はホープフルSで4着だが、当時は出遅れて位置取りが悪くなったのが敗因。小回り対応の器用さがあり、先行力を生かせば上位争いできる。