馬産地北海道の新ひだか町にある静内農高は日本の高校で唯一、軽種馬生産を行っている。毎日の馬の手入れや厩舎掃除だけでなく、出産時の世話、セリ会場で馬を引くのも生徒の学習科目で仕事。10月28日、同校で2月に調教師を引退した藤沢和雄氏(71)の講義があり、同氏の言葉は金言として伝わった。今回の「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は北海道の大滝貴由樹記者が、講義を見て聞いて思ったこととは?

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「すごい人が来てくれるんだと楽しみにしていました。『馬と会話することが大事』という言葉は印象に残りました。意識はしていたけど、まだまだ足りないと思いました」。目をキラキラ輝かせて話してくれたのは、静内農高3年の今泉萌さん。キンプリでもBTSでもない。岐阜県から馬留学で同校に通う17歳の憧れの対象は数多くの名馬を手がけ、調教師としてJRA通算1570勝、今はJRAアドバイザーを務める藤沢氏だ。

藤沢氏の講義は、文科省が次世代の人材育成を推し進める「マイスター・ハイスクール事業」として行われた。「馬産業の展望」のテーマで、受講したのは馬全般について学ぶ生産科学科の2、3年生。“目がキラキラ輝く”は使い古した言葉かもしれないが確かにキラキラしていた。生徒には夢の時間だった。

バブルガムフェローの天皇賞・秋(96年)、タイキシャトルの仏G1ジャックルマロワ賞(98年)、ゼンノロブロイのジャパンC(04年)…。藤沢氏が育てた数々の名馬は今の高校生が生まれる前や幼少期だが、みんな詳しい。講義では「藤沢厩舎では、追い切りを馬なりで行っていたのはどうしてですか」と記者並みの質問もあった。

競馬は楽しい。多くの人に夢を与えられるのも魅力の1つだと思う。生産、育成も大切な役割を担う。静内農高の馬術部はこれまでに約200人が卒業し、多くのOBが馬の仕事に従事。馬術部顧問の小林忍教諭もその1人。3年の平野圭祐主将は「地元京都の大学に進学して馬術部に入りたい。将来はJRAの調教師を目指します」と夢を持つ。

そんな高校生を、藤沢氏も応援する。「みんな希望があるという感じで、生き生きしていたね。我々の頃は競馬学校もできる前だったけれど、今は学校もあって目標も持ちやすい。どの世界でも若い人が入ってくるのはよいことだね」。生徒たちには忘れられない1日になったに違いない。

【大滝貴由樹】

◆藤沢和雄(ふじさわ・かずお)1951年(昭26)9月22日、北海道生まれ。77年トレセン入り。菊池一雄厩舎で81年の2冠馬カツトップエース、野平祐二厩舎ではシンボリルドルフに携わる。88年に開業し、JRA通算1570勝、同重賞126勝(うちG1・34勝)。

◆静内農業高校 1978年(昭53)開校。所在地は北海道新ひだか町静内田原797。繁殖牝馬を所有し、日本の高校で唯一軽種馬を生産している。過去にユメロマン(父ジェネラス)、ゴーゴーヒュウガ(父スズカマンボ)がJRAで勝利。生産馬は主に北海道市場に上場され、今年のサマーセールでは父アニマルキングダム、母マドリガルスコアの1歳牡馬が700万円(税抜き)で落札された。

◆マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業) 文科省による事業で、地域産業の担い手を育てる目的で21年度から始まった。公募を経て、先進的な取り組みを行う専門高校などを指定し支援する。静内農高では今回、ほかに日本中央競馬会日高育成牧場、札幌競馬場職員など計4回の講義が行われた。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)

2月末の引退後も笑顔が絶えない藤沢和雄元調教師(撮影・木南友輔)
2月末の引退後も笑顔が絶えない藤沢和雄元調教師(撮影・木南友輔)