<坂口正大元調教師のG1解説>

逃げる武豊、追うルメール。ゴール前は力が入りました。最後は首差、武豊騎手のドウデュースが押し切りました。右手での落ち着いたガッツポーズ。やはり絵になるジョッキーです。

第89回日本ダービーを制したドウデュースと武豊騎手(右)(撮影・鈴木正人)
第89回日本ダービーを制したドウデュースと武豊騎手(右)(撮影・鈴木正人)

皐月賞から戦法を変えなかった勇気、これが勝因でしょう。その皐月賞は後方からいい脚を使ったものの3着。ダービーはもう少し前の位置から…と考えても不思議ではないですが、今回も後方でこの馬の競馬に徹しました。縦長の隊列で前が遠く離れると、最後の直線が長いといっても勇気がいります。ですが、そこはダービー5勝の名手。まったく慌てませんでした。

向こう正面で中団の後ろにつけるドウデュース(右から4頭目)
向こう正面で中団の後ろにつけるドウデュース(右から4頭目)

ペースは平均的に速く流れました。2番手から運んだアスクビクターモアが3着ですから、ハイペースの前崩れではありません。前で運んでスピードの持続力で勝負するか、後ろから切れ味を発揮するか。勝ち負けには極端な戦法が必要でした。ドウデュースの上がりは2位の33秒7。2分21秒9という速い決着の中でこれだけの切れ味を引き出せたのは、あの位置を選択したからこそでしょう。

武豊騎手はクラシック最年長優勝です。53歳となれば、体力的には落ちてきて当然です。それでも勝てるのはなぜか。判断力が衰えないからでしょう。位置取り、ペース、進路取りや追い出しのタイミング。馬は1秒もあれば5~6馬身は動きますから、レース中は瞬時の判断が何度も求められます。前半は無理せず、後方で流れを読み、直線は外から抜け出す。判断力が勝利を引き寄せました。

2着イクイノックスのルメール騎手は、皐月賞とは違う戦法をとった勇気に拍手です。前走に続く大外18番でしたが、出していった皐月賞とは違い、今回はドウデュースより後ろに控えました。小回りの中山と広い東京。それぞれのコースで馬の力を最大限に生かすため、違う戦法を選択しました。上がりは最速。また2着で悔しいとは思いますが、さすがの騎乗でした。

4着ダノンベルーガはもっと走るはずですが、10キロ減が微妙に影響したのかもしれません。皐月賞馬ジオグリフは7着。直線でドウデュースに離されたところで、距離の壁を感じました。(JRA元調教師)

日本ダービーを制したドウデュースをなでる武豊騎手(撮影・鈴木正人)
日本ダービーを制したドウデュースをなでる武豊騎手(撮影・鈴木正人)