今年も3歳馬だ。クリストフ・ルメール騎手(43)騎乗の1番人気イクイノックス(牡3、木村)がG1初制覇を成し遂げた。

2着馬パンサラッサの大逃げを、皐月賞&ダービー2着の大器が強烈な末脚で差し切った。勝ち時計は1分57秒5。キタサンブラックと同じ7番枠で父子制覇を達成し、平地JRA・G1の1番人気連敗を16で止めた。今後はジャパンC(G1、芝2400メートル、11月27日=東京)、有馬記念(G1、芝2500メートル、12月25日=中山)が視野に入る。

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さすがのルメール騎手も焦った。満を持してイクイノックスと直線に向く。観衆が序盤より沸き続けた理由がやっと分かった。大逃げを打ったパンサラッサが15馬身も馬群の前にいる。一瞬、不穏な結末がちらついた。「間に合わないと思った」。届くか…。勢いを増す脚色に希望が広がっていく。ゴール寸前では確信に変わっていた。「勝ったという手応えはもちろんありました」。差した。よくぞ追いついた。激しく2度、首もとをたたいた鞍上のパフォーマンスが、ひりつく激戦の表れだった。

春2冠連続2着の悔しさを晴らした。首差で涙をのんだダービー。秋は並み居る古馬を1馬身上回った。「ダービーの時はラスト100メートルは少し疲れていました。今日はゴールまで加速しました」。夏をへて、末脚はより鋭さを増していた。道中は中団で追走重視。レース史上2位タイとなるラスト3ハロン32秒7の末脚で、世代の壁を蹴散らした。

戦友、ファンが背中を押してくれた。週中、菊花賞を勝ったアスクビクターモア陣営から激励を受けた。ダービー2、3着でしのぎを削った仲。木村師は「『次はイクイノックスをなんとかしてくださいよ』と言われて、熱いものがありました。むげにするわけにはいけない、と」と明かした。厩舎には小中学生から馬の似顔絵、切り絵も同封されたファンレターが届くようにもなった。「その時間は簡単じゃない。そういう気持ちに応えたいと思ってやっている」。昨年の有馬記念以来となる1番人気のG1勝利。大勢の思いを乗せた史上5頭目の3歳天皇賞馬だ。

さらなる成長を父キタサンブラックに重ねる。17年優勝馬の父は3歳秋の菊花賞制覇を皮切りにG1・7勝を挙げた。ルメール騎手は「キタサンブラックの産駒ですから、この秋から来年に良くなると思っていました。レースごとに良くなっていますね」と進化を認める。次のターゲットは距離を延ばした大レースとなりそうだ。木村師は「ジャパンC、有馬記念をなんとか選択肢に入れられるように尽力していきたい」と締めた。強くなり続けた父のように。現役最強を目指す大きな1勝となった。【松田直樹】

◆3歳馬の天皇賞・秋V 37年ハツピーマイト、96年バブルガムフェロー、02年シンボリクリスエス、21年エフフォーリアに続いて史上5頭目(すべて牡馬)。

◆イクイノックス ▽父 キタサンブラック▽母 シャトーブランシュ(キングヘイロー)▽牡3▽馬主 (有)シルクレーシング▽調教師 木村哲也(美浦)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 5戦3勝▽総収得賞金 4億324万2000円▽主な勝ち鞍 21年東京スポーツ杯2歳S(G2)▽馬名の由来 昼と夜の長さがほぼ等しくなる時